第22話:異世界編完結 〜俺は登り続ける…このオーク坂をっ!〜

〉 音速の壁が戻ってくるタイミングで私は進行方向を連打します。


〉 バババババババパァンッッ!!


〉 正面の音の壁への連打で減速をはたしゆっくりと弧を描いて地上へ軟着陸を──


〉 ズバァアアアァンッッ!!


〉「ゴファッッ!!」


〉 うむ? 何か硬いモノに激突したような? 地味に痛いですね、単車で走行中に急に右折してきた軽トラにはねられた時ぐらい痛かったですよ?!

〉 む!? 羽? 周囲には血まみれの羽毛が散乱しています。まさかバードストライク?! ジャンボジェット機のエンジンが吹き飛ぶのも納得の痛さですよ! まあ、おかげで停止できましたが…


〉「まったく……なんなんですか……」


〉            残念…


〉          ヨシッ!


「思い出してもらえましたか?」

「『残念…』がヤツを監視していた私で『ヨシッ!』が触手女神なのです! 自分達で始末したかったのですよ!」


『「ゴファッッ!!」と叫び声をあげてハンバーグに転職したのが商売と盗賊とペテンの神エロメスです。よくぞあの土バトを始末してくれました』


「そ、そんな、神様ー! エロメス様ーー!」


 黒妖精さん視点の回想ムービーを見せられたあゆみちゃんが絶望の表情を浮かべています。

 あの硬い謎のバードストライク、あれは…あー……触手女神さん、未来視で知ってて私を砲弾に使いましたね。


「神は死んだのです」

「お前の神はハンバーグになったのです!」


 簀巻き少女の周りをくるくる回る白黒妖精さん達がステレオで弄ります。そんなに人間が憎いんでしょうか?w


「うわぁああーーーーん!」


「人間さんなんか必要ないのです」

「商人さんなんかイラナイのです」


「私は大商人に、CEOになるんだからー!」


「人間さんには末期資本主義、貧者から収奪するだけの新自由主義経済の次のシステムを模索するに足る善性がないのです」

「人間さんにはポピュリズム大衆扇動政治、衆愚政治に墜ちた民主主義に代わるシステムを選択するだけの智慧がないのです」


「そんなことないもん! 民主主義と資本主義経済は最高なんだから!」


 前世で読んだ作品にも多かったですね、中学校の社会科で教わったままの民主主義資本主義経済マンセーななろーしゅ…

 資本主義経済は、奪ったり盗んだり騙したりできる弱い市場がなければ成立しない欠陥システムなんですよね。世界中が発展してそんな市場が無くなると、自国の貧民から搾取するタコの足の自食状態になるんですよ。いやですねぇ…


「活版印刷も蒸気機関もいらないのです」

「銀行も保険も株式市場も必要ないのです」


「だってだって! エロメス様が、産業革命と流通革命と金融革命をやれって…」


 ふむ、土着の神々が人間を嫌う理由が見えてきましたか?


「性悪な人間さんはオーウェンのユートピアで農業と家内制手工業をしていればいいのです」

「猿並の知恵しか無い人間さんはマッドマックスなファランジュでヒャッハーしてればいいのです!」


「うわぁああああぁっっん!!」




「…………それで、私に何か御用だったのでしょうか精霊神様?」


『え、あ、はい。マダナイ様が駄神エロメスを始末して下さったのと、ソレを確保していただいたのでこの世界の問題がおおむね解決いたしました』


「異世界通販…ですね?」


『はい、この世界を経済侵略しつつ、魔力リソースを盗む邪神の策略でした』


 うん? たしかあゆみちゃんには…


「あゆみちゃんには無限の魔力があったのでは?」


『無限の魔力(偽)ですね、周囲の魔力を無限に収奪する能力です』


 フムフム、こちら側の魔力等をひたすら吸い取りどこかに送るスキル構成だったんですね。

 そして異世界通販所持者を確保したので、通販の流れをたどり地球に逆侵攻をしかける……と?


「向こうに攻め込むので?」


『つきましては地球に詳しいマダナイ様の助力を当てにしております。むろん万全のバックアップで後押しさせていただきますよ』


 うーーん、目の前の水晶柱だけで大陸の1つぐらい軽く取れそうですが…


「ゲートでつないで軍勢を?」


『いいえ……はい……いいえ』


「…………つまり?」


『まず、あちら側のリソースを削ぎます……ダンジョンで!』


 おお、流行りモノですね、悪くない。





 20XX年、中国福建省斉天大聖神社がぺかーと輝いてダンジョン化したのを皮切りに、世界中にダンジョンが生まれ──


『なぜ福建省なんです?』


「お約束と、獣神様が用意してくださった理不尽なラスボスに丁度よかったので」


『獣神様は……しかたありません』


 各国政府は何百羽とカナリアを殺しながらダンジョンの調査を実施あるいは強行していった。


『各国首脳に声明を出したほうがよくありませんか?』


「ダメですよ、奴らは自分たちが万物の霊長だと、その頂点だと錯覚しているのです。そのままバカでいてもらったほうがいいんですよ」


 各国は自国の軍隊でダンジョンの探索を進めようとしたが一切の近代兵器が意味をなさず──


『そもそも獣神様と機神様が乗り気になった時点で人間に勝ち目はありません』


「機神様、地味に有り難いですね。マイナカードや預金高も偽造し放題ですし。特にマイナ、なりすましに最適ですね」


 ダンジョンから魔物が溢れ、周辺地域を蹂躙するというスタンピード現象を経験した人々が自主的に自警団や民兵を組織し──


「機神様がでっち上げたデウス・エクス・マキナINDUSTRYのダンジョン素材を利用した新技術とか、人間たち、本気で信じているんでしょうか?」


『もともと閉塞感のあったディストピア前夜な社会でしたし、ブレイクスルーとして丁度よかったのでしょう』


 各地の自警団や民兵をまとめるための、デウス・エクス・マキナINDUSTRY社主導の探索者ギルドが発足、その直後間髪を入れず有名無実の寄生虫組織と化していた国連を解体・吸収し国際探索者連盟を設立──


「アレも駆け足でしたよね」


『ロシアと中国以外の首脳は退陣しましたから』

 

 以降、探索者によるダンジョン攻略や資源回収が世界経済の根幹をなすダンジョン主義社会が形成され──


『機神様がとても楽しそうに各国の地下資源を回収していましたから、以前のような消費文明を維持したいならダンジョンにすがるしか生きる道はありません』


「石油の利益で国内の税金無税や各種サービス無料にしていたあの国とかあの国、どうするんでしょうねぇ…」


「ねえ!」


『どの国もなるべく既成のシステムをい──』


「ねえってば!」


「うるさいですよ奴隷ちゃん」


『奴隷ちゃんうるさい』


「奴隷ちゃんゆうなーー!」


 粗末な、ボロボロの貫頭衣に鉄の首輪、足首にはご丁寧に鎖からのびた鉄球を装備した奴隷ちゃんことあゆみちゃんが地団駄を踏みます。


「いい加減に私を開放してよぉ〜!」


「ほう、現世から開放されたいと?」


 私の拳が真っ赤に燃えます。


「そ、そじゃねえよ! もう私はイラナイでしょっ!」


『わかっているではありませんか、では…消去しますか?』


 精霊神様の指先に光が灯ります。


「ち、ちがうって言ってんでしょーー!」


 私は大型モニターで再生していた動画を停止してなみだ目の奴隷ちゃんに向き合います。


「戦犯奴隷ちゃん、死にたくないですか?」


「あ、あ、あ、あたりまえでしょー!」


 ソファーから立ち上がったヘテロクロミアの、妖精のごとき美少女が奴隷ちゃんに問います。


『私達に協力するなら生かしておきます。むろん、褒賞もありますよ?』


「な、なんでもします!」


「いま、なんでもするって言いましたね?」


「え、あ………………な、な、なんでもしますぅっ!!」


 ヘテロクロミアにピンクプラチナヘアーの美少女と、ブラピをベースにハーフオークっぽく三枚目にした顔の男がにちゃりと嗤っています。あ、三枚目は人化した私なんですがね。

 だがしかし精霊神様、アナタはまずいでしょう? 私はいいんですよ、ハーフオーク顔の三枚目ですから。妖精美少女がその顔をしてはマズイですよ。


「では、アナタには、ダンチューバーでNO.1アイドルになってもらいます!」


「な、なんだってーーーー!」




「では、アナタのバックストーリーから詰めますか。いいですかアナタは──」


 あゆみちゃんは異世界転生者である。スラムに転生したあゆみちゃんは毒親に奴隷商に売られ、変態貴族に出荷される途中で逃亡、逃げ込んだダンジョンでトラップにかかり深層に転移する。


「お、おー、それっぽいじゃない!」


 そのダンジョンは高難易度の奈落の迷宮と呼ばれるダンジョンの深層で、あゆみちゃんは上に上がるよりはダンジョンクリアしたほうがいーんじゃねと判断、ダンジョンコアをめざす! 


「おー! なろう英雄譚じゃん! わかってるーーっ!」


 忍び難きを忍び耐えがたきを耐え艱難辛苦を乗り越えたあゆみちゃんはダンジョンボスを撃破! 半死半生、むしろ九死壱生状態のあゆみちゃんがダンジョンコアに触れると…


『願いを言いなさい…どんな願いでも1つだけかなえてあげましょう…』


「うおーーーーっ!」


 少女は願った…「私を元の世界に返してっ!」と…


「えーーーー……ブーブー〜」


「何か不満が?」


「だってさー、帰ってもクソ毒親しかいねーし、政府は貧乏人に増税するだけのカスだし、社会はどん詰まりじゃん? 戻ってもいーことないじゃん?」


「そこは、昭和の綺麗事おためごかし漫画や小説のように、『わたしぃ〜元の世界に帰って頑張ってみるぅ〜』とか『行き詰まってんのは社会じゃねえ! お前自身だろ! 俺は俺をあきらめねえっ!』的な子供だましで頑張りましょうよ?」


「むーーりぃーーー……言葉遊びしてもクソはクソじゃん」


「ハァ、まあ、バックストーリーはコレでいきますので、アナタは綺麗事アイドルを目指して四六時中演技してくださいね

人と人とのつながりが〜とか、キズナが私のパワーになるのぉ〜みたいなアレです」


「ブーブー! ブーブー!」


 私は奴隷ちゃんの肩を抱き寄せ、精霊神様に目配せします。


「え? 何??」


「バックストーリーをなぞりに逝くんですよ」


「へ?」


『フェアルィイイィーゲェエエートォォ……オーーープゥウウウンンッッ!!』


 眉間にシワを寄せ握り拳を振り上げた精霊神様が叫ぶと精霊パウワァーが事象に変化をうながし現実を浸食、あらゆる色彩に明滅しつつ暗く輝く極彩色の灰色の渦が目の前に出現しました。


「ふぁっ? 何なの?? 何?」


 私はやさしく奴隷ちゃんの背中を押し出し、混沌の渦の中に──















「………精霊神様、すごい顔になってますよ?」


『コレ、実はワクを維持するのがキモなんです。未熟な者がコレをすると…』


「すると?」


『脆弱な世界がこの穴に向かってクシャッ…っと吸い込まれて』


「なるほど」


『……行かなくていいんですか?』


 私は混沌の渦をじっと見つめます。


「そうですね、行ってきます」


『行ってらっしゃい』


 私はフェアリーゲートをくぐり混沌の流れに身を任せた。

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イラツイたのでオークに転生したった ──ついでにスローライフを目指す── 木村木一 @Kiichi_Kimura

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