第21話:交互にエロを挟む法則は適用されていません

 テンプレ的には貴族の美少女、豪商、奴隷ちゃんですが、はてさて鬼が出るか蛇が出るか…


「センセイ、お願いします!」


 触手女神に出会ってから、なんというか『流れ』のようなモノを感じるようになりました。

 運命の輪とか世界の流れのようなナニカです。

 そのナニカが、装甲馬車の中を指し示すのです。触手女神の乳type能力でも伝染ったのでしょうか?


「クマゾーさん、馬車の中には何が?」


「さらわれた獣人の子供たちと、妖精様です」


 …妖精……様?


 装甲馬車と私が勝手に呼んでいますが箱馬車を謎素材おそらく魔獣素材でコーティングし、内部から開閉可能な銃眼を戦列艦の砲口のように側面や後部に設置した改造馬車です。おしいですね、騎獣問題を、動力を解決できれば最初期の戦車になれそうですよ。

 入口は…うん? 前面? なるほど? 御者台への移動を容易にする事と『逃げ切る』事を主眼とした設計ですか。荷物の積み込み等は度外視で…ふむ、ぶっそうな世界ならではですね、それで後部ハッチは無いと。砲口を向けて撃ち合う戦車なら設計ミスですが装甲馬車ならアリです。


「クマゾーさん達は前面から半包囲なさい」


 熊にそう指示をだして私は後部からこじ開けることにします。しかし、殴ったら中身がグジュってなりますね、どうしますか。


 左手を上に、右手を下に、手のひらを馬車の後部装甲に押し当て


 ギャリリッ!


 円を描くようにぐるりとえぐり抜く!


「さて、妖精さんとはどんなクリーチャーでしょうね?」


 直径2メートルほどの円盤がゴトリと地に落ちます。

 穴の奥には高さ50センチほどの黄金色の鳥かごが鎮座ましましており、鳥かごの中心には白いドレスを纏った30センチほどの妖精が結跏趺座で瞑目していました。


 その妖精さんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ロリアニメ声でいちおうの感謝を吐き出します。


「善意の第三者の奮闘には感謝するのです」


 装甲馬車の最後部に安置されていた鳥かごは、この馬車内で最も重要な貨物…ということになりますが──


「しかし、穢らわしい人間さん達を一網打尽にする策が破綻してしまったのですよ」


 触手女神といい妖精さんといい、この世界の人外は殺意が高すぎませんか? オーク族長さんがリベラルなフェミニストに見えてきました。


「フゥゥムゥ…………Ω!」


 妖精さんの小さなクチから絞り出された双子座の独覚者なかけ声とともに、黄金色の鳥かごがはじけ飛びました。


「ギャアアアッ!」


 馬車内部から悲鳴が……あ、まずい


「妖精さん、獣人の子供がいたはずですが?」


「問題無いのです。獣人さんの子供たちは、人間さんが肉の盾にすべく前面ハッチの前にならべられていたのです」


「いま肉の盾になったのは人間さんたちですよ…クフフフ」


 馬車の内部から複数の悲鳴やうめき声が聞こえてきます。 


 ──痛え…──だ、誰か……──回復ポーションがきかな──商売と盗賊とペテンの神エロメス様我らを──痛い痛い痛い──な、ぜ……──ブウウウン…──お兄様お兄様たす──ちくわ大明神──チクタクチクタク──だれd

 内部は散弾か手榴弾をぶっ放したような地獄絵図になっていますね。


「さあ、獣人さんたち、こちらから外にでるのです」


 妖精さんの誘導で馬車から転がり落ちるように飛び出して来たのはケモ度9割強の子パンダ2頭、ケモ度5割副乳ケモ子、ケモ耳ケモ尻尾ショタ……業深き者その名はニンゲン。


「ラン! カン!」


「とおちゃーん!」

「おやじぃーーっ!」


 子パンダはクマゾーの子…だと?!




 馬車の横には簀巻きにされた10代前半の少女が転がされています。他の人間たちは妖精さんを閉じ込めていた鳥かごの散弾を浴びて再起不能になり、少し離れた場所に積み上げられています。

 なんでも鳥かごの素材は魔法を封じる効果があったので、その散弾を受けた人間たちは回復魔法が効かなくなり処分するしかないのだと。海◯石か!


「はなしなさいよこの毛むくじゃらども! わたしは商売と盗賊とペテンの神エロメス様の神子なのよ! 

わたしはエロメス様の神託を受けて産業革命と物流革命を進める『あゆみちゃんの蒸気革命』のヒロインなんだから!

活版印刷と銀行と保険と株式市場も作らなくちゃいけないんだから邪魔しないで!

わたしは成り上がってメディチ大公家の女王になるの! 邪魔しないで! ◯ックフェラーに、◯スチャイルドにわたしはなるのよ!」


 うーん、いちおう貴族で豪商で美少女?で神の奴隷ちゃんのようですね。テンプレは全て押さえていますが……子供と会話しているようで要領を得ません。


「えー、あゆみちゃん?」


「なによ!」


「プレストとサガのシェア争いどうなりました? たしかサガウラヌスの後継機ドリームウィザードが大勝利したんですよね?」


「ハァ? アンタバカァ? つかアンタも転生者!? ハッ、プレストの完全勝利で今はプレスト8よ、サガなんてクソy──」


 ビギッ…


 うん? 結界? うっかりパーンしそうになったのではばまれて良かったのですがこれは…


 ………………ふむ


「──よクソ! 早々に撤退したわよ!」


 うむ、あゆみちゃんは同郷でまちがいなさそうですが…


「貴方達ですね?」


「ちょっと何無視し──」


 ゴンッ!


 うるさかったので、頭が割れない程度になでておきます。


「そのゴミにはまだ用があるのです」

「そのクズにはまだ使い道があるのです」


 バババババババ…と騒々しい羽音を立てて現れたのは…


「駄神の痕跡をたどるのです」

「駄神の経路をつぶすのです」


 馬車に囚われていた白いドレスを纏った妖精さんと、どこからか現れた黒いドレスを纏った身長30センチほどの妖精さんでした。かなりデシベル高めの羽音が耳に優しくないですね。


 バババババババ…


「貴方達は?」


 バババババババ…


「私は愛の妖精、フォー・LOWCOST・ホワイト!」

「私は勇気の妖精、ジェイ・NOSIDE・ブラック!」


 バババババババ…


「人間さんなんかイラナイのです」

「商人さんなんか必要ないのです」


 バババババババ…


『2人は、ブラッディ・キュート!』


 バババババババ…


「あの、静音モードでお願いします」




 ぺちぺちと頬をたたきあゆみちゃんを起こします。


「うーん…はっ! なによアンタ達!」


 静音モードの妖精さん二人が簀巻き少女の周りをくるくる周回しています。


「解析終了、無限の魔力(偽)を感知」

「異世界通販、ウェコペディア、カリスマ(偽)を検知」


「異世界通販? web小説でよく見たアレでしょうか? あゆみちゃん、そのネットショップで地球の物が買えるのですか?」


「ふふん、アンタも転生者ならわかるでしょ? 魔力と引き換えに科学文明の物品が買えるのよ! 私は商売で成り上がったのよ!」


 取り引きには魔力を使用するのですか。異世界通販モノには結構ツッコミが入っていましたね。魔力取り引きの魔力は何処に消えるのか、金貨取り引きなら異世界の金の総量はどうなるのか等々。うん? 妖精さん達が目配せしていますね。


「あゆみちゃん、私は鬼殺のJOJOは8巻までしか読んでないんですよ、続きは買えますか?」


「私は商人よ! タダじゃあ──」


「知ってますか? 爪と指の間に針を差し込むと痛いらしいですよ?」


「どうぞ! 鬼殺のJOJO9巻から106巻までです!」


 ドサドサと虚空から100冊近い単行本が出現しました。私はその内の1冊を拾いあげます。


「解析完了」

「座標確定」


 キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルといきなりさえずり出した妖精さん達を横目に私は鬼殺のJOJO9巻をめくります。ほう? そうなりましたかぁ…


「……神様〜…商売と盗賊とペテンの神エロメス様〜……たーすーけーてーー……」


 キュルキュルさえずる妖精、死体や馬車を片付けるクマゾー達、漫画のページをめくる私のかたわらで転生者あゆみちゃんは彼女の神に助けを求めています。

 エロメスとやらが、触手女神クラスの神格だとちょっとめんどくさいですね…


 ズルリ…と世界がズレる感覚が意識に流れ込み、その直後、私と妖精さん達と簀巻きのあゆみちゃんは一面の花畑に転移していました。

 地平線の彼方まで続く花畑、その地平線はゆるやかな凹状になっており…


「球状の結界か隠れ里でしょうかね?」


「ようこそ精霊界に」

「ようこそ引きこもり界に、なのです!」


 ふむ、引きこもりなのですか?


「精霊神様は神々の闘いにびびって引きこもったのです」

「荒ぶる創星神様や獣神様にびびって引きこもったのです」


 ふむふむ、そしてその引きこもりは……数km先に浮遊しているあの、阿倍野ハルカスよりちょっと大きめの水晶柱ですね。

 全長目算400メートルから500メートル、周囲に小さなビルサイズの水晶柱が数本、さらに小さめの水晶柱が多数本体の周りを浮遊しつつ周回。

 神格……かなり高めですが、ものすごく無理をすればギリギリ殺れると私の本能がささやいています。


「びびりなのでいじめないで欲しいのです」

「クソチキンカスなので優しくしてやってほしいのです」


 黒妖精さんのほうがアタリがきついですね。そして私の思考を読んだのか精霊神の周囲の子機?が私と精霊神の間で盾のように再配置されました。そういえばあゆみちゃんが静かですね? あ、泡を吐きながら失神していましたか。


『わ、私は三貴神が一柱の精霊神です』


「三貴神は自称なのです」

「ヤツは三貴神の中で最弱、なのです!」


 部下?がヒドイw





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