第20話:デ・ジャ・ビュ♪
私はカエル村の滝の上から呆然と下流を眺めていました。
ええ、いま私が見ている風景はこんな感じです。
大樹海
カエル村
←妖精郷 滝壺 オーク
毒沼 の領域
トロール 毒沼毒沼
この辺 毒沼毒沼毒沼 樹海
樹海 毒沼毒沼毒沼毒沼
毒沼毒沼毒沼毒沼毒沼
地平線の彼方まで、見渡すかぎり毒々しい濃紫色の毒沼が拡がっています。なんか既視感がありますね。
サラマン2世ェ…………
「ウフフ……さすがは私達の創り上げた神獣ですわ〜♪」
下半身から大量のアンビリカルケーブルな触手をズルズル引きずる触手女神が上機嫌です。
殺意高すぎませんか? まあ、人間たちは無闇矢鱈と気色悪かったので仕方ないとも思えますが──
「私が人間の都市で毒を吐く計画がががが…」
「あら、毒ならサラマン2世がきっちり吐いたではありませんの? これでも足りないとは、さすがはオークさんですわね❤️」
「そうじゃない、そうじゃないんですよォ…」
人間です、人間に毒を吐かないと……人の領域でなければ吐けない毒が……はっ!? この執着は…まさか、愛?!
愛といえば某大家(故人)が「私は数行読んだだけでその作家が人間を好きかどうかわかるの! 人間を好きじゃない作家の作品はダメね(キリッ)!」となにかの小説コンクールの審査の時におっしゃっておられたのを思い出しますね。
実にイラっとしました。
夢幻の世界の深淵奈落に逃避した第一人者が何を言うのかとw お前が好きなのは801塾年おっさんと美青年だけだろっ! 数行読んだら801好きかわかるんか? ちゃんちゃらおかしいですわァ! …いや、当時のみんなもそう思ったはずです(震え声)。
だが同じ方が「ハァ!? あに【自主規制】の名称勝手に使ってんだ?! あ゛あ゛っ! ナメてんのか? いいかクソガキ、アタシの本は全国どこの本屋にもあるんだ! この国で創作者やってる奴がアタシの本を読んだ事がないなんてアリエナイ、あっちゃナラネエことなんだよっ! すっとぼけてると潰すぞクソガキがぁっ!」(注:オンドゥル語超訳です)などと熱く語るのを目にし、作品と作者の人格は反比例するんだと子供心に幻滅したのはいい経験でしたね。
(※ この作品はフィクションであり実在の人物・団体・事件・大作家(故人)とは一切関係ありません)
(※ この作品はフィクションであり実在の人物・団体・事件・大作家(故人)とは一切関係ありません)2回目
うん、私の行動原理は【愛】、間違いありませんね!
なんとかして早急に人間に愛を届けなければ…
「人間どもの都市を攻めたいんですの?」
「あー…、えー……、はい」
大体合ってる…かな?
「なら、ついて来てくださいまし」
触手女神はずるずるとアンビリカルケーブル触手を引きずりながら、滝上の半水没住宅地域のほとりにあるひときわ大きな地上建造物に私をいざないます。
その建物は倉庫として使われており、広めの倉庫内には見覚えのある物体が分解された状態で保管されていました。
そう、私がオーク村で制作した…………人(オーク)力カタパルトです。ボルタンが背負っていたサッカーゴール状のパーツはコレの基礎部分ですね。
「なぜこれが?」
「譲っていただきましたのよ? 血の気の多い水棲獣人の傭兵とひきかえに」
それでカエル村の戦力が不足していたんですね。……うん? 人間の襲撃時、アナタが出れば即解決したのでは?
「わたくしが出なくとも、なんとかなると観えましたの。なんとかなりましたでしょう?」
読心に未来視ですか…、本体は地底湖の底、敵にするとやっかいなタイプですね。
「ウフフ…ええ、それでわたくし、あまり表に出ることはありませんでしょう? 時おりカエル村長右頭にそれとなく意思を伝えはしますが、普段は湖の底で眠っていますの。今回は特別でしてよ、ええ、千載一遇の…」
ん?? カエル村の氏神は君臨すれども統治せず…ですか、君臨もしていなさそうですが。むしろ放任? それはさておきさっき彼女から感じた微妙な違和感は何でしょう……なにか裏がありそうなんですが、予定もありませんし流されるのも一興ですか。
しかしオーク族長、いつの間にか水中戦力の増強に手をかけていたんですね。どこかの水上都市でも攻めるつもりなんでしょうか? あるいは沿岸部? 古巣のオーク族長が息災でなによりです。
そうしてのんびり会話している間にも、触手女神の触手によってカタパルトがきっちり組み上げられていきます。アナタなかなか器用ですね。
「できましたぁ〜❤️」
あれ? なぜ触手サンはカタパルトを組み立てているんでしょう?
「え?」
触手が私にからみつき、カタパルトの、本来は焼いた石などを乗せるスプーン状のパーツに私の身体を横たえます。
「ええっ? ちょっ!?」
「方位よし♪ 射角問題なし❤️ …2…1…ソコォッッ!!」
起動したカタパルトが立てる『ガシャン』という重い音と、私が音速の壁を打ち砕く『パンッ』という軽い炸裂音が同時に響きました。
本来は5オークチカラ程で使用する人力カタパルトを、自前の触手だけで起動する触手女神は意外に脳筋でしたね。
「行ってらっしゃいましぃ〜❤️」
私は超音速で空に撃ち出されました。廃止になる前に超音速旅客機コンコルド…乗りたかったです。
「そう…きましたかぁ……」
前世の創作では重量数百トンのハンマーをぶん投げ、そのぶん投げられたハンマーを即座につかむことで空を飛ぶ復讐者がいましたがこんな感じなんでしょうか? あのシリーズ、見続けると地味にイデオロギーで文化洗脳されそうで嫌いでしたね。東◯版蜘蛛怪人が正史になっていたのには爆笑しましたが。
「私はキノコ狩りのオーク、すPiiiiiiiiii ま゛っ!」
などと空に舞いながら現実逃避している場合ではありません。徐々にですが速度も落ちはじめ、高度も下がって来ました…
はるか彼方にはほぼ直線状の水平線にきらめく青い海も見えます。まだまだかなり距離があるようですが、海に手が届く距離までスキップできたのは僥倖でした。
いきなり海に出るのも悪くはないのですが旅は過程も楽しむものです、そろそろ降りますか。
音速の壁が戻ってくるタイミングで私は進行方向を連打します。
バババババババパァンッッ!!
正面の音の壁への連打で減速をはたしゆっくりと弧を描いて地上へ軟着陸を──
ズバァアアアァンッッ!!
「ゴファッッ!!」
うむ? 何か硬いモノに激突したような? 地味に痛いですね、単車で走行中に急に右折してきた軽トラにはねられた時ぐらい痛かったですよ?!
む!? 羽? 周囲には血まみれの羽毛が散乱しています。まさかバードストライク?! ジャンボジェット機のエンジンが吹き飛ぶのも納得の痛さですよ! まあ、おかげで停止できましたが…
「まったく……なんなんですか……」
残念…
ヨシッ!
「おー…街道ですよ! ぬかるんだ道に轍! 2本のワダチの間には青々と繁茂した雑草! …………交通量はなさそうですね」
とりあえず道なりに海をめざしますか。
ようやく人間の領域に近づけます。創作物では魔境の山奥で祖父から一子相伝の技を受け継いだ主人公が、街を目指す途中で──
──障壁がはが──御者か馬を狙────商売と盗──クッ、射手を───
──盗賊に襲われる美少女貴族に出会うなんてご都合展開が氾濫していましたが、そんなに都合よく──
──な、なぜです神!────いま──助けに────よう────
──…………馬車が襲われていますね。
「……………………うむ、まあ、いいでしょう」
声が聞こえる方向に少し急ぎました。私の到着をまたずに戦闘はほぼ終了しており、生き残った襲撃犯8名が造りのしっかりした装甲馬車を取り囲んでいます。
辺りには複数の死体と、ワニと馬の中間種のような初見の騎獣の死体が4体。横転した質素な荷馬車が2台、散乱する物資に轟く怒号。馬車は3台だったようですね。
「出てきやがれ毛無し猿どもっ!」
襲撃犯の獣人たちが装甲馬車を即席破城槌(丸太)でガンガン殴りつけていますが装甲にはわずかなキズもつきません。いい装甲ですね、いや、魔法的なバリアでしょうか? とはいえ、どちらも詰んでいることは間違いありません。どうするんでしょう?
うん? 襲撃犯の1人が恐らくリーダー格の獣人のソデを引いて……あ、私の方を指差しました。
ヒトを指差してはいけませんよ? 前世の子供時代、国最大のスラムや特殊な人々の居住地でヒトを指差すと、奴ら徒党を組んで襲いかかってきましたからね。ゾンビパニックやヒッチコックの鳥状態です。それで襲撃された近所のオッサンが「絶対にヒトを指差すな!」と子供時代の私にすっぱく注意していたぐらいです。
「あ、あの〜?」
おや? よく私に声をかける勇気がありましたね。今の私、超音速フライト中に装備が消し飛び、かろうじてキープできたペニスケースだけのやばいオークですよ?
「なんでしょう?」
返事をすれば露骨にホッとした顔、えぇ……他のオークたちはどんな対応をしているのか興味がつきません。オレサマオマエマルカジリ?
「おひけえなすって! さぞや名のあるオーク様とお見受けいたします。アッシは近隣の村で顔役を務めさせていただいているクマゾーというケチな野郎でござんすが」
オーク村の隣の獣人村の村長も熊獣人でしたね、この世界、熊獣人の地位は高めなんでしょうか? 目の前の直立した熊そのものの彼も統率力が高そうですね。
「卑怯卑劣な毛無し猿どもの謀り事によりアッシたちの村の──」
「…簡潔にのべなさい」
「チカラをお貸しください」
「いいでしょう」
そういうことになった…
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