第19話:貴婦人×触手×合体❤️

「助けてくださいましぃ〜!」


 バシャンバチャンザブザブザブザブと、広大な地底湖の中心付近の水面でもがくパーリィドレス姿の妙齢の貴婦人がいた。


「そこな貴方、タスケテー」


 バチャバチャザブザブザブザブザブザブザブザブ……


 ええと、私ですが水棲獣人の村の滝に侵入し、まったく光の差さぬ鍾乳洞を数百メートル以上進み、滔々と水をたたえた水深数百メートルの地底湖の湖上に浮遊なう。← イマココ

 なお、現時点でも光源は無いものとする。


「ああ、もうダメ、お助けになってぇ〜」


 バシャバシャバシャバシャ……


「………………まだ続けますか?」


 バチャバチャザブザブ……ザブ…………


「…………もう、釣れないお方ですこと」


 湖の貴婦人は何事も無かったかのように、湖の中央で濡れた髪を手櫛で整えています。ええ、水深4〜5通天閣はありそうな湖の中心で腰から上を水上にさらしながら。

 浮力の強い海で立ち泳ぎした場合でも、せいぜい胸から上が海上に出るぐらいです。腰から上を水上に出す彼女には違和感しか感じません。


「私は美味しくないと思いますよ?」


「あら? ウフフフフ」


 しっとりとした潤いのある魅了効果を乗せた美声です。ずっと微睡みながら聞いていたくなるような心地よい声ですね。


「ウフフ…ありがとう褒めてくださって」


 うーん、やはりこれは魅了効果ですね。彼女のアタマをパーーンしますか? いや、本体は……湖の奥底……ですかねぇ。地底湖の底にかなりの質量を持った存在がいますね。

 オーク族長さんでこの手の精神操作になれていなかったら、湖の底の本体にパクリでした。

 この貴婦人はさしずめバカをおびき寄せる疑似餌かチョウチンアンコウの提灯ですね…バカをおびき寄せるエサです、バカを、エロ猿なバカをおびき寄せるwクッ…プククッwww


 む? 疑似餌なら獲物の食性に合わせるはずですね。気色悪い毛髪の不自由な◯リコンがターゲットならこの貴婦人は幼女に化けて


「おにーたんたしゅけてーー!」とか叫んでいたんでしょうか?


「おにーたんどうしたの?」


「心を読まないで下さい」


 改めて彼女? を観察します。腰から上は前世の私が好みそうなゆるふわ系ふんわり貴婦人(なにがふんわりかは略)。

 腰から下は……水面下で無数の触手状の触手の触手たちがウネウネと湖全体に広がりながらはるか湖の底、その湖底に潜む巨大な何かに繋がっています。

 スキュラ的なナニカかと思ったのですがむしろコレはカリュブディスのごとき大妖?


 余談ですが『前門の虎後門の狼』の英語版は『スキュラとカリュブディスの間』だと何かで読んだ記憶があります。


 スキュラとカリュブディスの間ですか……湖の貴婦人と湖底のナニカの間には…………うねうねうねる触手の束しか観えませんね。

 ああ、アレです。

 ジ◯ー系ラーメンのごん太麺の特盛を彷彿とさせつつ、くりとる神話なSAN値直葬要素をねり込んだ情景がそこそこ広い湖全体にズワワワァアアアァァ……っと拡がっています。

 近場の◯ロー系ラーメン、ニンニク特盛にすると最後はニンニク汁の味しかしなかったんですよねぇ……(現実逃避)


「あら? どこを見ているのかしらぁ? あまり不躾な視線を向けてはいけませんよ」


「これは失礼」


 私には触手に欲情する性癖はありませんよ湖の貴ふ…いや、触手貴婦人。うーむ、今の彼女の容姿的には触手王妃あたりが妥当だろうか? 触手の規模的にはむしろ触手女王? もう触手女神でいいですかね…


「それで、ここへは何しにいらしたの?」


 釣りに失敗したことはスルーですか?

 

 魔の森だの死の森だので貴族の美少女を保護するのはパンサーヘッドサーガ時代からの伝統で、生前はそれこそその手の展開を何作品も読みましたが…………ないですね。

 貴族の美少女はそんな危険地帯に出向きません。ジンバブエや1970年代のカルカッタに一人で行くようなものです。

 そもそもこんな地底湖で貴婦人が溺れている訳ないじゃないですか、百歩譲って王都の地下の秘密の転送装──


「あの、もし? オークさん?」


 ──置で転送したとしても、私が訪れたタイミングで溺れていたりとかどんな悪運ですか、恥を知りなさい。


「あの〜…無視しないでくださいまし」


「……ん、そうですね、電刃魔導拳」


 バチリッと、一瞬電光に照らされて視界に映った貴婦人の姿は、ぬるりとぬめる病的に青白い肌と底の見えない深い淵のような瞳で……


「フフフ、お化粧をしていない女性を見てはいけませんよ、目が腐ります。悪い子ですね」


「ア、ハイ、ゴメンナサイ」


 彩色を手抜きした貴女にも非はありますよ、私は悪くない。ああでも、体表の色彩を変化させる擬態するタコやカメレオン系の能力なら光源が必要ですので、明かりを灯していなかった私にも非がありますか。


「仕方ないですね、ゆるします。ところで、なぜここへいらしたのかしら?」


 見た目どおりおおらかな心の持ち主のようでひと安心です。私はここに訪れた理由を素直にうちあけました。


「神獣サラマンドラを美味しくいただいてしまったから、代わりになる神獣を探しに?」


「ええ、何かがいる気配がありましたのでサラマンドラの子供でもいないかと」


「わかりました! では、貴方が探しているサラマンドラはこの毒撃特化のサラマンドラですか? それともこの魔法特化のサラマンドラですか?」


 ザバリと、彼女の右側に触手に捕えられた体長1メートルほどの子サラマンドラ、彼女の左側にも触手に捕えられた体長1メートルほどの子サラマンドラが現れました。ビチビチと暴れています。


「……小さいですね」


「ねえどちらかしら?」


「……あ、普通のでいいのですが?」


「貴方は正直者ですね、褒美にこの二匹を」


 う、うん?


「融合しますね! フュージョン!」


 え?


 二匹はジュルジュルのびてきた触手に覆い隠され湖の中にドプンっと引きずり込まれ…


「できました〜♪」


 ザブリと湖の中から触手とともに現れたのは一匹の、体長1メートル20センチほどの双頭の子サラマンドラ。脚は4対8本となったものの尻尾は1本に纏められていました。造形は悪くないですが…


「……小さいですね」


「素材が足りないので……集めてもらえませんこと?」


「どうしろと?」


「強い魔物の死体を集めてくださいまし」






la〜♪  la〜lala〜〜♪ lalala〜♪ la〜la〜la〜〜♪


 おお、触手女神よ…その青いベルベットな部屋のBGMはまずい。なにゆえその旋律を私の記憶からサルベージしたもうたか!?

 

la〜〜la〜lalala〜〜lala〜♪


「貴方が、読んで欲しい、察して欲しいと無意識に望んだことは読み取れるのよ……あら? テレパシスト奴隷妻ななs」


「シャラップッ!!」


「なるほどなるほど、心を読める方が必ずしも優位ではないと……その発想はありませんでしたわ! 

これはイイですわね、ああ…イイですわぁ……究極のご奉仕種族を作れますわ! ウフフフフフ……」


「私の性癖暴露は置いておいて、そろそろ始めませんか?」


「あらあら……ウフフフフフ…………」


 地底湖の中心に造成された直径100メートルほどの触手フロートに、先代サラマンドラの半身、各種魔獣の死体、メタルワームの装甲、ワームジャーキー、干し毒キノコなどが積み上げられていきます。


「毒キノコは必要ですか?」


 私はスープのダシを守るため、触手女神を牽制します。


「ムダなモノなど何一つありませんのよ?」


「…………ソウデスカ」


「では始める前に……」


 触手女神が触手で拘束された子サラマンドラを私に差し出します。


「…?」


「存在力を、限界までふくらませてくださいまし。ナメク人最長老のアレですわ!」


 存在力?! 潜在能力じゃなく? いやそもそもアレ、意味があったんですか!?


「いいですわね? 限界ギリギリまでですわよ? 限界を超えるとパーーンってなっちゃいますから、ギリギリのところで辛抱してくださいましね?」


 限界を超えるとパーーンですか、オペラとメリーは犠牲にならずにすんだのですね。私は命がけで暴れるトゥインヘッドサラマンドラ2世の2つの頭部を、左右の手で一つずつギチリと握り込みました。

 

 えー……存在力……存在力……コレかな? つかんで……引きずり出し……私のオーラっぽいのを混ぜつつ風船を膨らますように……ぷぅ〜〜っと、こ、こうか?


 口から泡をふいてビクンビクンと痙攣するトゥインヘッドサラマンドラ2世。生きてますかね? うむ、一応息はあります。


「よくできました〜♪ えらいですわ~♪」


「ふむ、それで?」


「いきますわよ? 素材合体❤️」


 ゴポン…と、触手女神や各種素材ごと触手フロートが水没。同時に水底から時おり閃光が発生、洞窟内を白光で何度も塗りつぶします。


「la〜la〜la〜〜♪ できました〜❤️」


 ゆらりと浮上してきたUMA、地底湖全体に横たわる全長300メートルほどの…トゥインヘッドフルアーマーサラマンドラ2世with触手!


『GRAAAAA!!』

『KYURURURURU…』


「……とても……大きいですね」


「フフフ、私の触手も合体させちゃいましたの❤️」


「そ、そうですか。まあこれでカエル村も安泰ですね」


「ええ、それじゃあ基本的な命令をしましょう」


「サラマン2世よ、カエル村を守──」

「さあ、人間を滅ぼしなさい!」


「え?」

「え?」


『GRAAAAA!!』

『KYURAAAA!!』


 サラマン2世は1センチ100年の鍾乳石を粉砕しながら走り去って行きました。


「え?」

「え?」

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