第11話 結末

 私たちはお互いに顔を見合わせた。しかし無言のまま、1分、2分、と過ぎていった。まだ自分の呼吸音が聞こえるくらいその場は静まり返っていた。

「……あ、あの、係長……」

「……お、おう、どういうことだ」

「あれー、怪盗一面相どこよー?」

 また、1分、2分と時間が過ぎていった。

「おう、もう少し様子を見よう。怪盗一面相が時間を間違ったのかもしれん」

 私も京子もどんな細かな異変でも見抜いてやろうと気を張った。


 何も起きずに時刻は深夜1時を回った。

「……おう、おかしいな」

 そこへ、ひょっこりと森中さんと林さんが現れた。

「刑事さん。もう満月になってから1時間以上経過しました。監視カメラで確認していましたが、村田さんが磯田さんに殴られたこと以外には、特に変わったことは起きていませんでしたが……」

「……ん、ゴホン。あれは、ちょっとした模擬訓練でして……」

 係長は苦しい言い訳をした。

「次の満月までにという予告でした。もう満月になってしまいましたので、あの予告通りにはならなかった、ということでしょうか」

 森中さんが冷静に言った。

「はい、そうだと思いますね」

 みんな、不思議そうにしていた。

 とりあえず、夜明けまで現状の警備を続けることにした。


 そして、朝になった。時刻は7時。交代で朝食を取った。それからまた元の警備体制を続行することになった。

 午前9時頃、郵便局の車がやってきた。美術館宛に速達郵便が届いたのだ。封筒は、前の日に届いた怪盗一面相からの予告状の封筒に酷似していた。私たちの前で館長の森中さんが封を切った。そして中から二つ折りの紙を取り出した。係長が手袋をはめて、その紙を開いた。



  館内の黄金のマスクは偽物だ

  本物は 美術館に搬入された日に 私がいただいた

  無能な警察の諸君 お疲れ

  ハハハハハッ


                    怪盗一面相



 怪盗一面相からの手紙だった。

「おう、今あるやつが偽物だと?」

 私たちはすぐに宝の間へ走った。

 森中さんと林さんがガラスケースにへばり付いて黄金のマスクを見たが、本物か偽物なのか、判断できないということだった。なので、専門家に依頼することになった。

 

 昼頃、警備会社と美術品の設置業者が来た。警察の立ち会いのもと、専用の機械を使ってガラスケースを外した。夕方になってようやく「黄金鑑定士」という聞き慣れない専門家が到着した。そして黄金のマスクを鑑定してもらった。

「うーん、これは純金じゃありませんね。フェイクですよ。金色の顔料が塗られてあるだけです」

 その場のみんなが、静かに驚いた。

「え、そんな……」

「まさか……」

 森中さんと林さんはガックリと肩を落とした。

「俺たちが来た時にはすでに盗まれてた……」

「係長、あの予告状は、一体何だったのでしょうか……」

「えー、でも予告通りよねー」

「おう、確かに、怪盗一面相が満月までに盗んだってことになるよな」

「はい、そうですが……」

「こんなのありー?」

 私たちも肩を落とした。

「怪盗一面相め、俺たち警察を愚弄しやがって……」



 念の為に、科学捜査研究所の化学班による鑑定も行われ、黄金のマスクが金色の塗料を塗られただけの偽物だということが確認された。予告状の封筒と紙とインクを調査したが、全国で販売されているありふれたものであることから、購入者の特定は不可能に等しかった。

 私たち警察が警備を開始した時、いや、美術館に予告状が届いた時にはすでに、本物の黄金のマスクは盗まれていた。タイムスリップでもしなければ、防げるはずがなかったのだ。

 怪盗一面相が警察に恨みを持っていることは間違いないだろう。搬入業者を調べたところ、黄金のマスクを設置する前月に雇われて設置の翌日に退職した、名前も住所もでたらめの人物がいることがわかった。その人物が怪盗一面相である可能性が非常に高い。しかし、依然としてその人物の正体は明らかになっていない。

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怪盗一面相 真山砂糖 @199X

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