第8話少女の気持ち

それは突然だった。狂った獣達に追い詰められていた私たちの前に言葉を喋る鹿さんが現れた。私とサチちゃんは二人で目を丸くした。

 「俺たちが妖精の姫?この鹿も気がおかしくなった獣と言い一体何なんだこの森は、、」

 あのワンパクなサチちゃんがこうまで嘆くのを見て、いい加減声を大にして私も泣きたい。

 「サチちゃん、、私もうこの現実がやになっちゃいそうです」

 無意識で不満がふと口から溢れた。今そんなことを言ったところでどうしようも無いことなど百も承知だが私はこれ以上我慢ができなかった。

 「え〜コホン姫様達何か勘違いしているようですね私はただの鹿、貴女達を襲うことは断じてしませんよ」

 心外ですねというようなニュアンスというニュワンスを含みながら私達の前で自分は味方ですとこの鹿さんは主張した。全てを鵜呑みにする訳では無いが私はこの鹿さんに反抗的な態度を取るのは賢明ではないと思い一時的に従おうと考え媚びるように

 「そ、そうなんですかそ、それは大変失礼しました」

 私は吃りながらも軽い謝罪をした。それを聞いた鹿さんは特に何か怒る訳でもなく淡々とした口調で喋った。

 「いえいえ麗しいお姫様が謝罪などする必要はありません」

 鹿さんが謙遜をした。恐らく今後一生見る事はない貴重な瞬間なのだろう。微塵もお得感はないのが残念であります。長い間ここで鹿さんと会話を交わすわけにもいかないので私は場所を移動しながら話をしましょうと微笑みながら提案し、すると鹿さんも頷いてくれた。するとサチちゃんが

 「おいハナそいつと行動するってんなら俺は賛成できないぜ」

 サチちゃんは鹿さんのことを完全に信用してはいなかった。私は少し迂闊すぎたのかも知れないサチちゃんの気持ちを考えることを失念して勝手に突っ走ってしまった。

 「あ、ごめんなさいサチちゃんの意見も聞かずに話を進めちゃって考えが浅はかでしたね」

 私は自身の傲慢さを恥じるように謝罪をした。するとサチちゃんは一瞬驚く様に目を大きく見開いたあと険しい顔をしながらこちらに寄ってくると重苦しい溜め息を吐き

 「バーカ、なんつう顔してんだよ、、」

 サチちゃんは小言でそお言うと私のおでこにデコピンをした。

 「え!サチちゃんあ、痛ったい」

 額のヒリヒリに悶えるように私はしゃがみながら両手をでおでこを抑えていると腕を組んで拗ねる子供のようなたたずまいで

 「ハナがそんな顔するのが悪い」

 そんな顔って一体どんな顔を私はしていたんだろう?しかもいきなりデコピンされる顔って時々サチちゃんはおかしな理屈でおかしなことを事をするので私はいつも振り回されてばっかりだ。今のデコピンもその例に漏れず起きたことなのだろう。すると鹿さんは微笑んでいた。私は鈍感なのだろうか?そんな小さな疑問が浮かんだ。今この瞬間すら私は鹿さんを疑おうともしなかった。何故か不思議と警戒心が湧かなかった。だがこれ以上自問自答してもしょうがないです。私は一旦その疑問に付いて考えることをやめた。戦略的切り替えなのです。

 「サチちゃん今の私たちじゃどっかに行っちゃった魔法使いさんを探しに行っても獣さん達に見つかってなす術なくやられるだけだし少しでも協力者がいた方が私は良いと思うのそれでも鹿さんと一緒に行動するのは嫌かな?」

少し卑怯なお願いをしたのかもしれない。何故なら私の中に罪悪感が産まれたのをヒシヒシと感じたからだ。そんな私の邪な問い掛けにサチちゃんは苦い物を口に入れたかのような表情をしながら応える。

 「分かったが油断するなよハナ」

 ハナちゃんの優しさに甘えてしまった。いつかこの恩は倍にして返さなくちゃいけない。私はそう決意しながら鹿さんとハナちゃんと共に何処かに行ってしまった魔法使いさんを見つけようと一つ一つ大地を踏み締めた。まず手っ取り早く探す為に微かに残された匂いを当てにした。 魔法の影響で所々焦土した葉っぱや小枝がパキパキと音を鳴らしているのが辺り一面に聴こえてくる。

 「お姫様達が御使いになる魔法はどれも麗しい限りですね」

 鹿さんは私達の使う魔法を麗しいと言い私は鹿さんのうっとりした顔見てちょっとだけ自分が誇らしくなった。ハナちゃんのほうを見ると腕を組みながら目線を斜め上に逸らしていたがよく見ると口角が上がったり下がったりしていて何だか心がホッコリした。たわいのない雑談をしてると突如ハナちゃんはピタリと静止して呟く

 「あの魔法使いの匂いがするぞ」

 ハナちゃんはそう言い真っ暗な茂みの方を指で刺した。私は気持ちが溢れて一目散に駆け込んでいた。暗い茂みの中で手を一生懸命かきまわした。溢れる衝動に私は身を任せただひたすらに草は払い除けた。

「ハァーハァー」

 私の呼吸は荒かった。気付くと目頭が火照っていた。無意識に鼻水も垂れて私の情緒がおかしくなりそう。私は抑えが効かない感情を必死に堪えるように手で顔を覆った。全く迷惑この上ないです。この、木屑だらけの魔法使いさんは世話が焼けてしょうがないです。





「あぁー無事で良かった」

 

 

 


 

 

 

 

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