怒りよりも涙で主人公を見れる人へ…

 作者さんが明言している通り復讐の物語です。

 不細工な黒ネコに変えられた架空の国の王女が人間に戻るための条件「7人の魔法少女を殺す事」をルールにしたデスゲームも裏に存在し、その遂行も相まって緊張感のある物語が展開されています。

 現代の魔法少女の7人は、特に大きな理由もなくいじめていた主人公が、ただ一回だけ反抗ともいえないような小さな行動に出た事で短絡的に主人公の家に放火、家族を皆殺しにすると言う暴挙に出るのはあらゆる意味で怖いです。魔法は立証できないので法で裁けない事を知っての行動であり、その行動原理に「主人公をしっかりさせるため」なんて有り得ない理由付けをしているのも怖い。

 その7人もそれぞれの家庭環境に起因するストレスを溜めていて、「だから仕方ない」と思えなくもない点を残しているからこそ、この物語は緊張感に満ちています。

 主人公を助ける叔父は復讐したいと言う主人公に一度「地獄行き確定だぞ」と教えます。玉椿さんの他の物語を読んだ事がある人にはピンとくる名前だと気付くと、復讐への決意、その方法、何よりも「地獄行きだ」と言う言葉、その全てに重みを感じさせられる事でしょう。

 魔法少女は黒ネコを守ろうとする者が、殺意を込めてアレルゲンになる物質を浴びせれば致命的な被害を受けるという設定も、デスゲームものとして秀逸です。

 webで復讐ものと言うと、自分が受けた苦しみを何倍にもして相手に返し、スカッとするものが多い中、この物語はザマァとはいえない厳しさがあるのも面白い。7人は全員、主人公を苦しめるために行動してくるのを、主人公に協力する叔父は「こちらにはHPがある」と解釈し、こちらも相応の被害、ダメージを受ける事を覚悟で相手を即死させる攻撃を繰り出すカタルシスがあります。

 読み進める内に感じるのは、主人公を追い詰めていく敵への怒りよりも、主人公が負っていく悲劇への哀が大きいです。哀が大きいからこそ、ストーリーの展開が非常に怖い、悲しい、悔しい、そう思う時、やはり復讐は地獄行き確定と言う言葉が思い出されます。

 ただしキャッチコピーの「男児に、救いなし」は少し外れています。主人公を救おうとする同級生がいます。ただし主人公は。その手を振り払い、主人公がいてくれたら呪いの事なんかどうでもいいと言う黒ネコも振り切って復讐を完遂しようとします。

 主人公の悲しみが分かる方、そして悲しみ故に復讐は報われないもの、デスゲームにざまぁなんて要素はなくて当然と思える方は最後まで読んで欲しいです。

 最後の一行に「男児に。救いあり」という一文に、読者もまた救われるはずですから。

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