趣味を暇つぶしにしていない人へ…

 オンラインゲームで、特にフルダイブVRを題材にしている物語ではβテストからの参加が多い印象があるジャンルの中で、「2度のメジャーアップデートを経た」と言う世界を舞台にしている珍しい物語です。

テーマもチートやスキルに頼ったり超絶プレイで他を圧倒したりではなく、初心者は初心者らしく成長し、ベテランはベテランらしく初心者を導くものというのも珍しい。

 剣と魔法と銃器と兵器の世界ArmsWorldは、極端に言えば「どんなモンスターでも最高速まで加速させた航空機で絨毯爆撃すればいい」乱暴な攻略法が主流であり、ベテランは皆、その戦法をとれないプレーヤーのパーティ参加すら拒否し、マウントを取るプレーヤーも少なくない場所。

序盤で初心者・ヨウも、その洗礼を浴びます。

 それを救い、「私が倍の働きをするから、彼をパーティに参加させて下さい」と言うベテランプレーヤー・セコとの出会い、セコが組織するチームメンバーとの交流に、狩りゲーやソリャゲーに関する作者の観察眼が光る様に感じられます。

 リセマラに代表される効率プレイを否定するのではなく「それも一つの楽しみ方」とするからこそ、効率を無視してのなりきりプレイや、パラメータよりも格好良さやデザインを重視した趣味装備も「一つの遊び方」だと考えられる。

 主将・セコが率いる初心者・ヨウ、nun・もも、強襲ニンジャ・綾音、傭兵・ジョシュア、遅れてきた伊達男・イーグルの趣味装備軍団は、ゲームをプレイするのではなく「ゲームで遊ぶ」事をモットーにして結成されたチームというのは、作中の彼らが「初戦ゲームだから」という醒めた見方をせず、戦いは熱く、普段はバカバカしく過ごしているというのも、私には意味がある様に思えます。

 今でこそゲームは基本無料で課金要素があり、5分くらいの隙間時間にもできるものが増えましたが、嘗ては暇つぶしにするものではなく、学業や仕事の時間をやりくりして、「自分の時間を作ってやる特別な遊び」だった事を思い出させてくれる物語です。

 きっと全ての趣味が、そういう時間を作ってするものなのです、本当は。

 無論、読書も、スナック感覚で消費するように隙間時間にするものではなかったはずです。

 そう言うものを思い出させてくれた物語だからこそ、参加しているカクヨムコン8で受賞して欲しい、本になって欲しいと思えます。

 趣味は暇つぶしにするものではなく、自分で時間を作って楽しむものだとお考えの諸兄に、是非手に取って欲しいです。

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