EL CAZADOR DE LA BRUJA
玉椿 沢
第1章「少女地獄編」
第1話
王がいて王妃がいて王女がいた時代。
国境を侵した軍があったため王は出征し、王妃は傷ついた兵士を看るために従軍した。
城に残された王女は幼くも、残された女中や老執事によって支えられ、城は平穏であった。
王女が6歳になった頃、王と王妃が残していった言葉により、王女の教育は城の中ではなく、城の外で行われる事となった。さして広くない領地である。市井の学校は、貴族の子弟も平民も、
幼い王女が向かった町には、少女たちがいた。
ある少女は父親がいなかった。
ある少女は父ばかりか兄までもが戦争に赴いた。
ある少女は両親が共に額に汗して働く事なく、自分たちの身の上を嘆いていた。
ある少女は勉強が嫌だから、15になったら魚を売る屋台をするといっていた。
ある少女は平凡な身の上でも、自分には相当な価値があるはずだと考えていた。
ある少女は優秀な兄と姉がいたため、自分も優秀だと証明したかった。
ある少女は――、
「なるほどなるほど」
7人の少女に、女はにんまりと笑った。
「あなたたちには価値がある。その価値を発揮できないのは誰のせいか」
魔女の視線は7人を順に巡っていき、最後は遠くに見えている城へと向けられた。
「全てはこの国を治める王と、その一族が無能であるからよ」
7人の少女が持つ才能を感じ取る事ができず、町の片隅――いや、路地裏から見出す事ができない。
「戦争にばかり夢中で、兵士が残して逝った家族の事を知ろうともしない。父の、兄の、夫の命が今、尽きようとしているかも知れない状況を、何も伝えてこない」
魔女は一段と声を高くしていう。
「王がバカだから、この国は貧しい!」
言葉を放ってから閉じた口は、また愉悦に歪んでいた。
笑みを7人へと向け――、
「今から、あなたたちに魔法を授ける。誰もが、あなたたちに平伏す魔法を」
炎が立ち上り、風が渦を巻いて炎の竜巻を造り上げた。
空を黒雲が覆い尽くし、落雷により青白い輝きを放たせた。
少女は空を飛び、その災厄を受ける城を見下ろす。
「あはははは」
炎の中、崩れゆく城を、幼い王女は右往左往。
「お逃げくだされ!」
王女を突き飛ばした老執事は、焼けて崩れてきた柱の下敷きなった。
「さ、早く!」
女中が老執事の遺志を継ぎ、王女の手を取る。
強すぎる炎に炙られた女中の顔には、王女が憧れた色白の肌が火傷の水ぶくれで二目と見えなくなってた。
「さ!」
走ろうとした。
数メートルも走ったところで、崩れてきた壁から王女を守るために犠牲になったが。
「早く……もう出口です……」
兎に角、王女は走った。
ドアは炎に包まれていなかったが、真鍮のドアノブは熱く、回すのに涙を堪えさせられる程。
いや、7人の魔法少女。
「よく無事で」
7人の前に、魔女が一歩、進み出る。
「まさか、一人だけを生き延びさせるために、後の全員を犠牲にするなんて」
魔女の言葉は、本来であれば褒め言葉でもある。女中も老執事も、この幼い王女にこそいずれ聡明な女君主になる輝きがあると信じて職務を遂行してきた。
黄金の忠義が、王女の命を救ったのだ。
だが魔女はいう。
「これがあなたたちのやり方。不明な王族は、生きているだけで犠牲を必要とする。この戦争も、どうせ負ける。王も王妃も逃げ帰ってくる」
魔女は背後に並んでいる7人の魔法少女を示すように両手を広げ、
「この素晴らしい7人の家族も、こんな王女の両親のために死んでいます」
「殺せ!」
「殺せ!」
7人が口々にいった言葉は、全て同じ。
「いいえ――」
だが魔女は首を横に振り、手にした黒い杖を振りかざした。
「殺さない。王女は、これから無限の時を生きる。浅ましい姿で、ゴミ溜めに
魔女が杖で指した王女の顔が黒いのは、いつの間にか煤で汚れているからではなくなっていた。
黒い顔、黒い耳――それは体毛。
小さな
「元に戻る条件は、この7人の魔法少女を殺す事」
魔女と7人の魔法少女は笑った。
「あなたが人の姿に戻るまで、何度でも生まれ変わり、あなたの近くにいる。見窄らしい黒猫のために、7人もの少女を殺せる者なんて、いるのかしらね?」
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