ep8 転生前の俺

 ......振り返れば、俺はず〜っとこんな感じだった。

 

 ひたすらジミ〜な学生時代を経て社会人になった俺は、仕事と人間関係のストレスから転職を繰りかえした。

 職場運が悪かったのか俺自身の問題なのか、あるいはその両方なのかはわからない。

 俺の二十代はそんな塩梅で過ぎていった。


 三十になると、ついに俺は定職につくのをやめた。

 なぜか?

 作家を目指そうと決意したからだ。


 俺はもともと小説が好きで、それこそ純文学からラノベまで、学生の頃から読みまくっていた。

 口下手で人見知りで内向的で、とかく引きこもりがちだった俺の心の支えでもあった。

 

 だから心の奥底では作家というものに憧れを抱いていて、趣味で二次創作の小説を書いたりもしていた。

 けど、プロを目指そうなんてことはとてもじゃないが考えられなかった。


 だが、三十を過ぎて俺は思ったんだ。

 自分を救えるのは、小説しかないんじゃないかって!

 自分の心の中にゴミのように溜まった燻ったモノたちを、燃やし輝かせるのは小説しかないと!


 それから俺は執筆にあけくれた。


 思えば......ここからだったんだ。

 俺が本格的に下り坂を転がりだしたのは......。



 最初は良かった。

 生活のためのアルバイトはしていたが、それでも大好きなことにおもいっきり向きあい、それまでにない充実感を得ることができた。


 しかし、現実はあまくなかった。


 書いても書いても、応募しても応募しても、橋にも棒にも引っかからなかった。


 俺は落ちこんだ。

 もちろん現実がキビシイことはわかっていた。

 俺だってそこまでお花畑じゃない。

 だが、実際に経験してみると、その厳しさは想像していたよりもはるかにズッシリと重く心を沈めた。


 そんな状態が何年も何年もつづき、しだいに俺は小説が書けなくなっていった。


 そうして......。


 俺はあきらめた。

 作家の夢を。


 そもそも俺が作家になるなんて、遠い夢のまた夢だったんだ。

 ムリなもんはムリ!

 もうヤメだ!


 だいいち、このままじゃ生活ももたない。

 なんでもいい。

 ちゃんと就職して、いいかげん俺も社会人として落ちつこう。


 そして俺は、職探しをはじめたのだが........。


 またしても現実はあまくなかった。

 

 二十代以来の就職活動。

 面接にたどりつくことは滅多になく、面接までいってもなかなか結果は出なかった。

 なんとか歯を食いしばって一社の内定をもぎとり、入社したはいいものの、すぐにまた離職してしまった。

 仕事に関しては不器用なりに頑張ったが、どうしても人間関係がうまくいかなかったんだ。


 俺は思った。

 ああ、二十代の頃のくりかえしだ......と。


 自分自身に愕然とした。

 いつまでたっても、俺はまったく成長しないんだな......と。


 そんな矢先だ。

 俺にとって唯一の家族である、母が亡くなったのは。


 ......


 本当の意味での友だちがひとりもいなかった俺は、これで頼れる者がホントにだれもいなくなってしまった。


 ......そこからの俺は、バイトを始めては辞めてを鬱々と繰りかえし、消費者金融で借金をしながら食いつないでいた。

 徐々にすさんでいく心と、たまっていく借金。

 ただ、さびしくて、むなしくてしかたなかった。


 ......。


「.....て、なにを今さら思いだしてるんだ!

 これから豪遊するんじゃないのか!?バカか俺は!」 


 われながら情けなすぎる!

 異世界に転生までしてアホか!

 その新たな人生も残りわずかなんだろ?


「今までのことなんかどーだっていい!」


 俺はいきなり、目をさましたようにグラスを手にとると、酒を一気にグーッと飲みほした。

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