しにかけの転生者~しにかけた中年はしにかけた青年に転生し異世界で魔剣使いになる~

根上真気

魔剣士誕生編

ep1 プロローグ

「君!なにしてるんだ!はやまるのはやめなさい!」


 言われたから踏みとどまったわけじゃない。

 そもそも、ハナっからそんな度胸なんて俺にはなかったんだ。


 いわば自殺未遂の未遂。


 いい歳してなんの希望も持てず絶望したはいいものの、俺にとってはその絶望ってヤツすら中途半端なものだったんだ。


「さあ、ゆっくり降りるんだ!さあ」


 このおじさん、アカの他人なのに、なんで俺の心配なんかするんだ?

 いや、目の前でこんなことされたら寝覚めが悪いからか。

 てゆーか、俺のほうこそおっさんだよな。


「さあ、おりるんだ。気をつけて」


 アカの他人のおじさんは、とにかく橋の手すりの上に立つ俺に降りるよう促している。

 飛びこもうとした眼下の川の水面には、橋上から照らす明かりがゆれていた。


「......」


 言葉ひとつ出ない俺。

 自分がもう情けなすぎて恥ずかしくてたまらなかった。

 でも、それでもやっぱり死ねないんだ。

 このまま生きていたって、いいことがあるなんて思えないのに...。


「......」


 俺は観念したように、欄干から降りようと足を動かそうとした。


 その時。


 ビュオオオッ!と、叩きつけるような突風が橋上に吹きつけた。


「あっ...」

 と、声を発したのも束の間...


 ザパァァァーーン


 まるで誰かに投げ飛ばされたかの如く、真っ逆さまに落下した。


 ぶくぶくと泡を立てながら鉄クズのように水中へと沈む。


 事前の調べによれば、川の水深は約十メートル、川幅は約三百メートル。

 俺は子どもの頃から今に至るまで、まったく泳げない生粋のカナヅチ。

 俺というバカを死に至らしめる条件は揃っていると思われる。


「......!」


 しばらくは必死に息を止めてあがいてみたが、たいして持つわけもない。


「ゴボゴボゴボァァァッ!」


 苦しみ耐えきれなくなって開いた俺の口から、大量の水が流入する。


「...がっ、がっ、あ......」

 しだいに苦しさも薄れていき、意識が遠のいていく。


 同時に、それまでの人生の様々な場面が頭に浮かんできた。

 これ、走馬灯ってやつか?


 ......ああそうか。俺は死ぬんだな。


 俺の人生、いったいなんだったんだろうか。

 こんなはずじゃ、なかったんだけどな。

 でも、これでもう本当に終わり......


『......さい』


 ん?


『......なさい』


 声?

 だれの声?


『......びなさい』


 なんだ?

 なんて言っているんだ?


『選びなさい』


 選びなさい?

 

『選びなさい。ここで死んでこのまま終わるのか、それとも転生して新たな人生を歩むか』


 は?


『さあ、早くどちらかを選びなさい』


 選ぶったって。

 そんなの、その二択なら、転生えらぶしかなくね?

 さっきまで死のうとしてたけど...。


『転生して新たな人生を歩むのですね?承りました』


 なんなんだこれ?

 あ、そうか。

 死ぬ間際にヘンな夢を見てんのか。

 本当にバカだな、俺は。


『それでは、新たな世界と人生で、またお目にかかりましょう』


 ああ、あ......


 ......

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