ep6 クロー・ラキアード
*
執事のパトリスの話から、自分の状況がおおよそわかった。
まず、俺=クロー・ラキアードという人物は、予想どおり資産家の息子だった。
しかも、二年前から一年前にかけて、立て続けに母と父を病気で亡くし、その遺産をひとりで相続したらしい。
父が亡くなってからは、若いながらもまわりに助けられながら父親の事業を受け継いで頑張っていたクロー。
しかし、〔神の呪い〕の病にかかると、共同経営者のビジネスパートナーに事業のすべてを譲渡。
それにともない、クローは自身の療養のことも考えて住居を移すことを希望する。
クローは詳しくは語らなかったようだが、
「もはや先が短いとわかった今、見知った人や場所が近くにあることが逆にツラかったのでしょう」
と、パトリスは言っていた。
そしてラキアード家のツテから、隣の隣の街の街外れにあるこの家、
「以前はとある貴族が住んでいた古いけど立派なお屋敷」
の紹介を受け、気にいったクローは即決断。
すぐ引っ越すことに。
それからは、街の喧騒を離れたこの屋敷で、代々ラキアード家に仕えていた執事のパトリス他数名の使用人達とだけで、クローは静かに暮らしていたんだとか。
......とまあ、クローの状況は大体こんなところだが、俺が気がかりだったことがもうひとつある。
それは、ここが「安全な社会か」ということ。
お金やルールといった社会の仕組みのこともあるが、第一はそこだ。
まず、今いるこの世界は、どうやら中世ヨーロッパのような文明レベルの世界だと思われる。
社会の仕組みもそれに近いと思っていいだろう。
では、肝心の「安全かどうか」の問題はというと.....
.
どうやら大丈夫そうだった。
なんでも、一年前に大きな戦争が終わってからは、すっかり平和になったとのこと。
身の危険が身近に迫るような戦争や紛争や飢饉が起こっていたりしたらイヤだな~と心配していたが、杞憂にすぎたみたいで良かった。
ちなみに、いま住んでいるこの街は、小都市ではあるものの経済的に豊かで、インフラ整備や住環境も整っており、治安が良いことでも有名らしい。
このことも、俺にさらなる安心感をあたえた。
さて......。
こんな世界にあって、若い資産家の青年である俺。
金はもちろん、見た目もイイ感じだ。
これらの事実から、
「好き放題ヤるのにこんな都合のイイ状況はあるのか?」
俺は眼をギラつかせた。
どうせあとは死んでいくだけ。
俺が死んだ後のことは、すでにパトリスがあれこれ考えてくれていて、他の使用人たちもそれに従うのだろう。
もちろん、それまでのクローの人となりだとか人間関係とか、まだまだ気になることは当然あった。
でも、クローはもともと病気がちであまり表に出ていかず、事業に携わった短期間以外では人とそれほど関わっていなかったみたいなので、そこらへんのことも、そんなに気にする必要はないのかもしれない。
いや、それもどーでもいいんだ。
そんなのは全部、記憶喪失ってことでなんとかすればいい。
とにかく.....。.
俺は遊びつくすんだ。
元のダメダメな俺にはできなかったような遊びを。
そうだ。
豪遊だ!
豪遊しまくってやるんだ!
......俺はメラメラと闘志を燃やした。
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