ep4 何処

 俺はただ呆然とする。


「......」


 まったくなんなんだよホントに。


 けど......なんだろう。

 あの声と話したからなのか?


 これがハッキリとした現実だってことはわかる。

 そして......


「転生......したのか、俺は......」


 奇妙だが、ふしぎと素直に、納得した。


 俺の頭がヘンになったのか?

 いや、もともとヘンだったのか?

 いずれにしても、落ち着きを取り戻した。


 窓からは昼の陽射しが差し込んでいる。

 俺は窓辺に歩いていき、外の景色を眺めた。


「ここは二階......そういえばここってどこなんだ?」


 冷静になった途端、俺の中で、当たり前の疑問の数々が、夏の積乱雲がもくもくと立ち込めるように一気にわき上がった。


「......ラキアード家の屋敷って、言っていたよな?」


 いやいやそんなことじゃない。

 ここ、日本ではないよな?

 じゃあどこの国なんだ?

 ヨーロッパっぽい雰囲気だが......

 

 いや、アイツ、別の世界って言っていたよな?

 確かにそう言っていたよな。


 そういえば......我々が住んでいる宇宙以外にも別の宇宙が存在するとなんとか、前に本で読んだことがあったけど......。


「別次元の世界に、転生したってことなのか?」

 

 それと、さっきまでの会話......。

 異世界の言語?

 いやその前になんでしゃべれるんだ?

 転生したから?

 クロー・ラキアードに備わっている能力を受け継いでいるってこと?


 けど、クローの記憶は一切ないんだよな。

 すべて元の俺のままだよな。

 冴えない中年でうだつの上がらないダメダメな俺の......てそんなことはいい!


 いったいどういう仕組みなのかはわからないけど、

「これならおそらく、文字も読める」

 はずだ。


 あとさっきの......パトリスって人。

 ラキアード家の執事って言っていたよな。

 ということは、俺=クロー・ラキアードはある程度の財産のある家の息子って考えられるな。


「......なんとかなる、かな」


 とりあえず、記憶喪失のまま通すのが無難だろうか。

 ウソというわけでもないし。

 転生したってことは、言わないほうがいい気がする。 

 だよな、うん。気をつけよう。


「よし.....」

 

 俺は決意をかためた。

 この新たな世界で、クロー・ラキアードとして、新たな人生を歩んでいくことを。


「やってみよう」

 

 自分でも不思議なくらい現状を受け入れた。

 あまりにも突拍子きわまりないことではあるけど、考えようによっては、人生やり直せるってことだもんな。

 そう考えると、少しワクワクしてきていた。


 俺はもともと、転生とか転移とか、生まれ変わりとか入れ替わりとか、そんな作品が大好きだった。

 それが自分の身に起きたと思えば、にわかに興奮さえしてきていた。



(この時、彼は知らなかった。

 そんな彼の決心も胸のワクワクも、すぐにへし折られ、ブチ壊されることになるのを......)

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