笑顔

 いつもの伊勢佐木町本店の6階の撮影ブースで静かに寝息を立てるブッコロー。


 その耳元で小さく岡崎が囁く。


「ブッコローさん、ほらとっても綺麗なガラスペンですよ。」


 それを聞いたブッコローは、寝息を立てながらもその内容が夢に出てきたのが、ううんとうなされたような声を出す。


「岡崎さん、ブッコローさん可哀そうですよ。」


 有隣堂のYoutubeを裏で牛耳る女、渡邉が岡崎に向かってブッコローを起こさないように小さな声で岡崎に注意する。


「良いんですよ渡邉さん。いつも滅茶苦茶言われてることへのお返しです。」


 岡崎はそう言いながらまたブッコローの耳元で小さく囁くと、ブッコローは身を捩らせながらうーんと苦しんだような表情でうなされる。


「岡崎さん、渡邉さんちょっといいですか。次のゲストの件でご相談が。」


「ああはい、すぐ向かいます。」


「ブッコローさん、少し離れますよ。」


 岡崎と渡邉はプロデューサーとのミーティングの為、未だに寝息を立てて眠りにつくブッコローを置いて席を外し別階に向かう。


 誰も居なくなった6階にポツンと一羽置いてけぼりのブッコロー。


 その姿を暗闇の中へ隠すようにフッと6階全体の電気が消える。いったい誰が消したのか、誰も居ないのに、いやきっと誰かが居たのだ。


 暗闇の中で微笑む誰かが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

岡崎の箱 斧田 紘尚 @hiroyoki_naoyoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ