ブッコローがバックヤードに着くと従業員エレベータがブッコローを待ちわびていたかのように外扉と内扉を共に明け、煌々とエレベータの箱の中を照らしている。


「ちょっと・・・。ちゃんと閉めないとダメでしょ・・・。」


 エレベータは怪我や事故防止の為、使用時不使用時関わらず必ず外扉内扉両方を閉鎖しておくルールになっている筈なのだが、今日は開いたままになっている。


 ブッコローは岡崎の指示の通り従業員エレベータの箱の中に入ると、ブッコローの体重で少し沈み込むよう感覚に陥る。


 箱の中の空気が重い。


 それだけじゃない。足元の箱の床からほんの少し、沼の様なずぶずぶと足を取られるような感覚を靴底から感じる。


「ザキさん?いるでしょ?なんかおかしくないですか?」


 ブッコローは俄かに感じたこのエレベータに対する違和感を、何処かで聞いて居るであろう岡崎に問いかけるとその途端、エレベーターの外扉と内扉が同時にガシャンと一気に閉まる。


「ブッコローさん、入っちゃいましたね。残念でした。」


 エレベータがガクンと一気に上昇し始める。1階、2階、3階・・・。


「ザキさん・・・。さてはハメたな?」


「お気づきになりましたか。ようこそ私の箱へ。」


 エレベータはまだ上昇し続ける。5階、B1階、1階、2階・・・。永遠に上り続けている。


 エレベータの壁はどんどんとブッコローに迫り、年季の入った壁が真新しい紙の箱になる。


 そしてその壁からモコモコしたウレタン材が湧き出て、次第にブッコローの体全体を包み込んでしまった。


「ちょっとザキさん、何するんですか!」


「ブッコローさん、自分の足先見てください。ほら、綺麗でしょ。」


 足先の感覚が無い、ウレタン材で圧迫されて麻痺したのだろうか、いやであっても足の指さき位は・・・、と何かしらの違和感を覚えたブッコローはウレタン材を手で少し押しのけ、岡崎の言う通り自分の足先を見る。


 すると、自らの足先が渦巻き、透き通し、光り輝く唖然とする光景が広がり始める。


 それがどんどんと足先から太腿、そして下腹部まで変化を続けていく。


 暗闇の中に光輝くクリスタルグラスやダイヤモンドの様に、少ない光源から光を取り込み乱反射しキラキラとブッコローの体が光り輝いて行く。


「後もう少しで完成ですよ。ほらここの、おなかの部分なんてどうでしょう。鮮やかな色使いの渦巻きで綺麗でしょう。」


「は、腹が・・・。」


「そうですよ、足先のこの尖った部分。これ、ガラスペンのペン先なんですよ。ブッコローさんのつま先って少し鋭いから、きっと綺麗な線が書けると思いますよ。ねえブッコローさん?」


 ブッコローはもう言葉すら発することは出来ない。既に嘴の先までガラスとなってぐるぐるとガラスペンの模様に取り込まれてしまっている。


 ブッコローの羽のオレンジ、ピンク、緑、黒目、嘴、本、その全てがガラスペンの模様となって、ウレタン材に包み込まれながら一つの塊になって行く。


「わあ、できましたよブッコローさん。とっても綺麗。私の宝物にしますね。」


 遂にはガラスペンその物なってしまったブッコロー、それを岡崎は「箱」ごとそのまま大きな包装紙でくるんでシールを貼る。


「さあ、次のブッコローさんはどんな模様になるかしら。」

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