怪
ブッコローは「次来たときは展示場所を変えてやるからな、覚えておけ」とあの肖像の本に向かって捨て台詞を吐きながら、ゆっくりと立ち上がりエレベータのある方へ暗闇に怯えながらおっかなびっくり歩き始める。
1階と2階の吹き抜け部分を横切る途中、上下左右、右を向けば左、左を向けば右、上を向けば真後ろとブッコローを弄ぶように怪現象が襲い掛かる。
あちらではパキッ、ピシッとなり続く様なラップ音、こちらでは積んだ本がドサっと落ちる怪現象、向こうでは誰も居ない筈なのに赤外線で点灯するLED電灯が頻繁に明滅を繰り返す。
終いには頼りにしていたスマホの電源が勝手に切れてしまいブッコローの肝も冷えるどころか凍り付いてしまった。
メインのエレベータの前に着くとこれはいつも通り動いているようで、エレベータを呼び出すボタンとエレベータの現在位置を示す4階の表示が点灯している。
それはまるで暗闇の店内ではまるで天からが垂らされた蜘蛛の糸の様に見えたので、ブッコローはこれ幸いと上に向かうためにボタンを押しエレベータを呼び出す。
しかし目の前で蜘蛛の糸が切れてしまったが如く、電源が落ちるような音と共にエレベータのから漏れる希望の光が消えてしまい、エレベータはうんともすんとも言わなくなってしまった。
それと同時にまた岡崎の声がブッコローに向けて店内の中を響き渡る。
「ブッコローさん、ダメですよ楽しちゃ。エレベータなら他にも有るじゃないですか。」
「ザキさん!どこに居るんですか。」
「6階ですよ。従業員用のエレベータがありますよ。」
「ザキさん、だってあれ5階止まりじゃないですか。」
従業員エレベータは相当古く外扉と内扉は両方とも手動で開閉するタイプで、特に内扉は蛇腹で出来ておりエレベーターの箱が階を上下する様をダイレクトに観察ができる。
このエレベータは中々にスリリングな体験ができる、伊勢佐木町本店随一のアトラクション施設なのだ。
「そうですよ、そこからは階段で上ってきてくださいね。私の指示に従ってもらえない時は・・・。」
「分かりましたよザキさん。」
「ではお待ちしてます。」
「次の番組で会う時はボロクソに言ってやる・・・。」
ブッコローは岡崎に対して悪態をつくように小さく呟くと、岡崎もそれを聞いて居たようで、「何か言いました?」と返す。
一体全体どこでどうやって聞き耳を立てているのかブッコローは毎度不思議に思うもののとりあえずはぐらかそうと「なんでもないでーす。はーい。従業員エレベータ使いまーす。」と生返事を返した。
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