「有隣堂しか知らない世界」R.B.ブッコローの中の人

ながくらさゆき

 ブッコローの中の人

「ブッコローの中の人ってどんな人なんだろ」

「芸人さんじゃない? 話面白いし、又吉さんとも知り合いみたいだったし」

「たまに中の人の姿チラ見せしてるけどさ、手もキレイだし、字もキレイだし、うなじもキレイだから気になっちゃう」


Twitterをチェックしていたら、俺の噂話のツイートがあった。

You Tubeの「有隣堂しか知らない世界」の司会、ミミズクのキャラクター・R.B.ブッコローの声を担当してから、中の人が面白いとか、中の人が気になるとか、コメント欄にも書かれてる。

そうか、気になるよな。中の人、俺だって言いたいな。いつも見てくれてありがとうって。応援してくれてありがとうって。

同じチャンネルの人気者、文房具王になり損ねた女・岡﨑さんはよくファンの人に声をかけられたり、ツーショット写真を撮るらしい。いいなあ、そういうのやりたいなあ。


そんなことを考えながら電車に揺られてたら、目に付いた物があった。女子高生のリュックに付いてる茶色とオレンジ色のぬいぐるみ。

アレは、ブッコローのぬいぐるみ? あれは有隣堂で売ってるやつか? いや違うな。フェルトで手作りしたのか。この女子高生、そんなにブッコローが好きなのか。い、言いたい! ブッコローの中の人、ここにいるよ。中の人、俺だよ!


「あ、関内かんない着いた。降りなきゃ」

女子高生は友達らしき同じ制服を着た生徒と電車を降りた。


同じ駅で降りるのか! 俺も今日「有隣堂しか知らない世界」の撮影だから降りる! 



「ねえ、あの人さっきから付いてきてない?」「え?」


女子高生二人組が俺の方を振り返った。急なことで驚いた俺は、二人を追い越した。そして駅のポスターを見るふりをしながら、二人を盗み見た。


「ほら、こっち見てるって。ポスター見るふりしてこっち見てる」「きも」


バレてる! いや違うんだ。俺はブッコローなんだ。いやしかしどうやって証明するんだ。ブッコローの声は加工してあるから、普段の俺の声とは違う。それにプロデューサーには中の人だと明かすなと言われてるし……。


「あのっ、すみません。それブッコローですよね!」仕方ない、ブッコローのファンのフリをしよう。

「え?」

「You Tube面白いですよね。有隣堂のブッコロー」

「何ですか、それ。知りません」

「えっ、リュックにブッコロー付けてるじゃないですか」

「これはカクヨムのトリさんです」

「トリ? ミミズクじゃなくて?」

「これはフクロウです」


よく見たら、女子高生のリュックに付いていたのは、ブッコローじゃなくてカクヨムのトリだった。そういえば、こないだコラボしたっけ。


女子高生二人組は俺を変な目で見て去って行った。


「……っていうことがあったんすよー」

撮影前の打ち合わせでプロデューサーにさっきの出来事を話した。

「中の人だって言っちゃダメって言ったでしょ。そういうサギが出てきたら困るし、中の人見たいって言っときながら、見てガッカリする人もいるんですから」また注意された。

「そうなんすかー」



「今日もブッコローの手映ってたけどキレイだった。手フェチだから嬉しい。中の人どんな人なんだろ」

ほら、今日も俺についてツイートしてる人がいる。でも夢を壊すから俺だって言っちゃダメなんだとさ。



おわり










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「有隣堂しか知らない世界」R.B.ブッコローの中の人 ながくらさゆき @sayuki-sayuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ