第1 1話 おしまい


「いじめも終わる、一人も終わると...思う結局俺は何をしたんだこの学校で......しょうもないヒーローだな。」

廊下から少し傾いた日にどこか晴れ晴れとした顔で今の自分と過去の自分と重ねて、自虐的に罵る。


「ん?何かまだやる事があった気が」

一抹の不穏、黒い影に首から髪にかけて冷たく撫でられる。


「何で俺は友達を離したんだ、

..それはいじめから皆んなを守るため。

違うそれは自分はまだ弱者になって無いと擁護するための嘘の言葉だ。」

目の縁に映る、空に限りがある証明


飛び散った黒い液体


親友の声


「机がッ」


最悪が終わるそれと同時に

アレも始まるのでは。


卒業式の1時間前

「机を廃棄します」

そんな声が聞こえてきて大きく音を立てて教室に入る。

「ですので写真を撮りたい方は〜〜

その後はすぐ卒業式なので準備をしてください。」

先生につかみかかる勢いで呼ぶが、


「    、   !   !!」

「ん?みんな今誰か話しかけたか?」


振り返ると、少しバラバラに並んだ机とイス、

天井のボヤけた蛍光灯の反射が目立つ景色、自分を観る制服を着ている歪んだ眼球達。

「まあそこに置かれてる空席の机も処分だな、かなり壊れているし。」


「ア、ア ダメだッ」

みんなの事を知っていたからこそ漏れ出た嗚咽、しかめっ面でも少しでも最高な終わりのために教室を走り出た。


染み付いてしまった弱者の性質、恐怖で震える足を無言で走らせ教員室に向かう。

「...もうタムラ先生しかいない。」


タムラは一人電気のついてない隔離された、教員室で資料の山に囲まれて黙々と作業していた。

「先生!机が廃棄されるって本当ですか!」

「コウキ!?何で、そうらしいな」

タムラ先生は驚きつつも急いでいるコウキに素早く答えてくれる。


「先生あの机をください!!」

「話が見えない何でだ、そんな大事な物なのかコウキ?」

「俺の、えっと壊したく無い...物なんですだからッ」

コウキは少し説明しづらそうにでも必死に伝えるとタムラ先生は少し前に話し合った事を思い出し自然と口角が上がっていた。


「...わかったコウキもういい、流石に許可を貰わないとだ、アイツんとこ行きたかねぇけど行くかぁ。」


嫌そうにため息をつくと、二人は廊下に書かれた警告紙を無視して校内を全速力で走る。


「校長!失礼します少しお話がございまして。」

「タムラせんせぇいじゃないですか、話なんて仕事はどうしたんですかー?

ん、ああその生徒のことですか。」

頭を下げた事で背後にいたコウキが見えると薄気味悪い顔で目だけがあの時の様に鋭くなった。


「で話とは何ですか?」

「私の要望なのですがこの生徒の使っていた机を思い出の品としてもらえませんか。」


「思い出の品として、ほおそんな生徒最近は見なくなったと思いましたが。」

校長は懐かしむ様に微笑むが、目がまたコウキに戻る。


「良いんですかタムラ先生 こんな不良生徒を信用なんてして。」


「そんなことを言わないであげてくださ」

「私は先生のことを思って言ってるんです

子供の喧嘩程度で手を出す生徒に、深く肩入れをすることは出世には繋がりませんよ。」

校長は先生の言葉を食い気味で遮ると、さも先生のために言ってる様なことをある種の教育者特有の笑みで話す。


「フンまあいいですよタムラ先生これで最後の教員生活ですけど、

元々この学校の先生方も問題視していたんです、それがオオトリくんの一件であらわになったオオトリくんをいじめるその生徒を見逃すなんて。」


喉を鳴らしながら話す声が

「先生を続けたいと頭を地面につけてお願いしたから、仕方なく他の先生の仕事を引き受ける条件で許してあげたのに


今日で終わりです少ない荷物をまとめて帰りなさいタムラくん。」

一段と低くなる。



「出世なんてどうでも良いですよ先生、

教師が生徒守んないで誰が守るんですか!」

血管がゴツく脈動し腕がゴツく角張る瞬間、

脂ぎってぶくぶくに膨れた顔面に叩き込まれる拳。


そのまま後方に倒れるとたまたま高そうな椅子に倒れる、すると意識のない体はズルズルより深く座り込む。

「不意打ちだクソデブが!」

そう吐き捨てると二人で現場を飛び出して走りだした、表情から分かる萎びたコウキの回る足が遅い。


「先生ごめん」


その言葉のお返しに背中を叩かれる。


「安心しろ、先生はこんなことしかできないからな、

それにもう先生じゃなくなる覚悟ができた、お前の叔父さんを信じろ、いくぞ!」


コウキは強く頷く。



式場と校舎つなぐほぼ柵しかない外通路、

少し横を向くと校舎全体が一望できる、

そしてカツキは窓から透けてバタバタと走り回ってるコウキを見つける。

「あの顔、皆んな!コウキだ!」

カツキの一言でデタオ、マドナ、サラが列から抜けて集まり同じくコウキを見つける。

「校舎はもう閉まってる裏から行くぞ。」

事前に計画してた様に素早く校舎を抜け出し道路に出る、

するとサラの目の前にコマチが立ち塞がる。

「何言ってんのそんなこと聞いてないよ、

なあみんな!!」

かなりヒステリックになったコマチをマドナデタオが体当たりして振り払う。

その隙に皆んな走り抜けていく。


「いじめが俺の時は助けなかったのにコウキの時ばっか助けんのかよ!?

サラ?俺でも成れるだろ君の 隣り に。」


一人サラだけは振り向いた。

「私行かなきゃ、

あなたは誰になりたいの?私はコマチくんと一緒に遊びたいの....

コウキにまだ言ってない事があるからごめんね...」

サラは今にも泣き出してしまいそうな少年の目を見て話す。


「コマチくん変わっちゃたね、明日も...」

言いかけると先を走っていたカツキが呼ぶ。

「早く来い!コマチが見えなくなるぞ!」

「ア..ほんとにごめんね...」

サラは咄嗟に追想して憂いに満ちた目で一瞥そしてコウキに振り返った。


「僕を置いてかないでよ!皆んな....

やっぱりそうなんだ、二人は引き合う同士、僕は二人の小競り合いで一時的に離れただけの君をやっと自分が引き寄せたんだって思ってた。


僕じゃ無い誰かと君は引き合った、

でも僕は!君に惹かれてた。」

コマチは足に力が入らず立ち止まり路面を掻きむしる、血が滲んでも掻きむしる。


「僕は僕は僕は、ウワアァアア!!!」

コマチは泣き出し倒れ伏す、その泣き声かき消すほどやかましい音が鳴りだし灰が舞い上がると、灰色のバンがコマチの対面の道脇に止まった。


「ねぇ君どうしたの?

何で泣ぃてるのかは分からなぃけど

泣ぎ止むんだ、」

大人の中でもかなり大きい巨体をゆっくりとかがめてコマチの顔を覗き込む、

「君顔かわいぃね!君良ぃな良ぃな

逃げてただけなのに、運がいぃな!

僕たつ運命だねぇ。」

興奮した声が鳴りバンの扉が閉まる、バンはけたたましいエンジン音を立て走りさっていった。


走り回っているコウキに、声を上げて手を挙げて近づいてくる皆んな。



「皆んな...机だ!俺の机を探してくれ!」

もう迷わないとでも言わんばかりの目で皆んなを信じてコウキは叫ぶ。

「わかった!!!」

何で?なんて聞かない、コウキが必死なら何でもついて行ける、時を超え気持ちは一致した。


皆んなで教室に向かう道中あまりの無言に耐えられず、走りながらもタムラ先生が話しかけた。

「って言うかお前ら卒業式は良いのか?」


「良いよそんなの!」

「大切だけどでも!」

「コウキが必死なら」

「一緒にいくよ!」


「先生俺も大丈夫だよ、もう居ない、」

(写真を撮ってくれる人はもう居ない。)

「...そっか」


コマチに遂に教室が見えた時には、

走りの早い一人がすでについていた。

「教室に机なんて一つも無いよ!」

その言葉に先生は舌打ちをする、

「焼却炉だコウキもう始まってる!」

頭の回転が早い一人が皆んなに指示を出す。


誰もいない外通路を走り抜け、

高いフェンスを登り、土だらけになった時とは違い何かが焦げた匂いがする場所にコウキは来た。


幸い作業員はいなかったがそこにあったのは


机を分解して木の部分だけにされた木の板の山その奥には大きな稼働している焼却炉。


「俺はここで待つ、って言うかもう大人の体力的に限界。」

タムラは息を切らしながらフェンスの扉の前に座り込む。

「息整えたら早く来いよ!こんな量どんだけ人いても足りねぇよ。」


奥は見ることすら困難だった、でも不安定だが軽いコウキ達だからこそ、ゴミ山の上に立てる事に気づいた。


探し始めて数十分経った

皆んな熱量が冷めることなくコウキの机を探し続けていた。

「黒い机黒い机黒い机」

「コレも違う、」


「イッ...ごめん大丈夫。」

サラは指に木のささくれが刺さった、

カツキも豪快に突っ込んでいったため木に体を傷つけられていた。


ふと考えてしまう、もう諦めるべきじゃ無いかってそっちの方が、諦めないよりかは少しでも最高なんじゃ無いかって。


「コウキまた俺らのためで諦めたら承知しねぇぞ。」

困難を乗り越え固い覚悟を持った一人がコウキに激励の一言を言う。

「で、でも」


コウキの絶望しかけたその時

焼却炉の火口一歩手前で暖かい光の中に異質な黒さの塊を見つける。

「あった!」

皆んながコウキの目線の先を見た、

運良く運悪く、

同時に作業員が戻ってきて、危険な場所にいる子ども達に気づいてしまった。


「何してるんだ!」

先生が一人は止めているが、先生を抜けた作業員が一人皆んなを追う。


ガサガサと木の板を押し除けながら近づいてくる。



その振動で傾いていた板が、

焼却炉に落ちる。




コウキの手は無意識のうちに掴んでいた。


熱気だけで皮膚が沸々と焼ける。

どんな人間でも手を放してしまう熱気だったが、

コウキの猛獣の様な気迫で立てた爪が傷にはまり放さない、



所詮子供の抵抗は虚しく

机の傷から黒い液体が滲み出し、滑る。


高温の炉の中では結晶が瞬時に着火して崩れて落ちていく、


一瞬のうちに莫大な引力の塊に空は黒く埋め尽くされ、

地面から柱が立ち上がり何もかもがその形のまま上から白く塗られていく。

「遅かった、」

白い世界で皆んな落ちる、

風が強く吹いて髪が舞い上がる中

自然と皆んなが手を取り合い、

輪になっていく。


「関係があるんですね。」

「ああ、うんでももうおしまいだ。」


「そうか俺ら死ぬんだ

ニュースのアレに吸い込まれたのか」


「.......っみ、皆んなごめん」


「フッごめんなんて、言ぅなよぉ〜」

カツキの涙の決壊を機に皆んな涙を滝の様に流す。

「俺らこそごめん俺らお前を見捨てて

俺らの方に来なくてよかったって、一瞬でも思った、ごめんごめんごめぇん」


「良いよ最期は来てくれたでしょ

皆んな俺のために、でもさあ遅えよお前ら」

コウキも今まで自分の手で抑制していた感情が溢れて止まらない。


「コウキ、久しぶりそしてごめんなさい許して貰おうだなんて思って無い、

私あの時言った事ずっと後悔してた、」


「いいよ、よくあるただの喧嘩だ、

ちょっと話さない時間が長かっただけで。」


「本当に言いたかったのは、

明日も..「明日も一緒に遊ぼうね!」」


徐々に光の世界が崩壊して縮こまっていく。

言えなかった言葉

言ってしまった言葉

やっと隣りにいても恥ずかしくない覚悟

全部を言い合った静かな大合唱、強く握り合う手、濡れる頬、皆んなの心の中の声だから誰にも聞こえないひっそりとした卒業式。

終わる学校『生活』。


「サラ!」

「はい!」


ポロッ ポロッ ポロッ ポロッ ポロッ

ポロッ ボロッ ボロッ ボロッ ボロッ

ボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロ...


笑顔バッドエンド

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腕で隠す机の傷 (アックマ) @akkuma

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