第10話 1人の涙


少年の無邪気さに染められた笑顔の奥ほどドス黒い恐怖を感じるものはない、暗ければ暗いほど深ければ深いほど、終わりの見えない。


周りの大人、

好奇心に駆り立てられた少年も、

自分すらも、

影の内には他人の様に心底恐れ後悔して情け無くただ、手を引っこめる事しか出来ない。


チュンチュンッ

チュンチュンッ


卒業間近のクラスの皆んなは

嵐の前の静けさとでもいうべきか

ピンク色の順風満帆な

努力の結晶、涙の分かれ、熱い拳の友情

が飾る非日常を卒業前に名残惜しそうに送っていた。



カクカクと体を動かし、壇上に上がると校長先生から優しく声をかけられ金色の厚紙を手渡される、少女が恥ずかしそうに振り向く。


無地の賞状と共に自分の努力を賞賛する拍手声援の景色、「中学最後の春へ」という思い出の表紙として飾ったことだろう。



卒業式の練習日

卒業生のみんなが集まり歌や証書の受け取る手順、着席起立の繰り返し在校生と卒業生の違いを丸々2時間近く淡々と教わる。

それだけなのに大笑いしていた人は見かけによらず、涙を滲ませていたり、

大勢で囲まれて動く事ができないでいると、少なからず気分を悪くする者もいた。


「ウッすいません気分悪くなっちゃいました、保健室行ってもいいですか...」


コマチが休憩時間中に気分を悪くなったことを皆んなにも伝えて、体育館から出ていく。

「うん大丈夫だよちょっと休めば良くなるって、」


「気をつけろよ!  ......」

カツキはコマチがいなくなったのを確認すると皆んなを物陰に集めてヒソヒソ話し始める。

「皆んな、俺たちも明日で終わりだなー

アイツ何してんのかな...いや忘れよう。」


皆んなの空気を感じて話を止めたが、

もう皆んなは言おうとした事を安易に想像できてしまい目をあわせにくくなる。


皆んなが辛そうな表情になると

カツキが切り出す。

「俺実はさ...オオトリにいじめられてたんだよ、皆んなは知らないかもしれないけど、同じ小学校でさ、

だからアイツの酷いいじめとかも知ってるんだよ!、それに皆んなさ...コ□□は...」


卒業式の前日

コウキは一人取り残された教室でいじめられていた。


「お前のせいなんだよ!犯罪者のお前が

のうのうと生きてんじゃねえよ!」


クラスの皆んなが見ている前で怪我をさせたコウキを皆んなは少しいじめられても怪我させるほどじゃないと、身勝手に恐れた。

その事が共通の悪を倒すことを肯定されている様に感じたオオトリはヒーロー的な承認快楽に任せて殴る。


コウキは殴られるがダメージは少なかった、

人間は日常に適応する生き物だ。

いじめを受け始めて早2年近いコウキにとって幸か不幸か毎日毎日毎日毎日殴られ慣れて、痛みを感じづらくなり、やつれていた体つきも戻り始めていた。


青あざが見え隠れするほどに痛めつけたのに、何度も砕いたはずなのに、自分がくっきりと写るほどの黒眼がこちらに見開かれる。


オオトリはビクッとすくんで嫌悪けんお感にまみれた顔で後退りすると。

「うわぁその眼お前も同じなのかよ、何でだよ、アイツの指示なのに...何でだよ!!

バケモン!早く叩けお前ら!」


五人に痛烈な指示を出し机やイスで

ボコボコにする。


><><><>リンチ中<><><><


ボロ雑巾のようになったコウキの霞む目前に突然足が現れた、まだあるのかと思って振り絞った力で誰か、見るとコマチだった。


「久しぶりコウキ。」

「久し...ぶり、」

一息ついた後にコウキに肩を貸し向かい合って椅子に座る。


「どうしたのなんか用でもあるの?

今皆んなと練習中だろ。」

「...ハー うん ある、でもさぁ用なんて無くても来いよ、もう昔とは違うんだよ。」


「あ...うん、で何?」



「ハーー、まあ良いや、

俺がみんなと罪悪感なく仲良くなれる為に君には言っといた方がいいよね?

ごめんね俺コウキを利用したみたいになって、俺、お前が机の傷とか言い始めた時から

目付けてたんだ。」


コマチは唐突に笑顔になったかと思うと早口で話出す。


「アイツらは1番最悪なことをしようとした、サラを標的にしようとしたんだ、

あの廊下で暴力振られてたのを助けてくれようとした時

アイツ、オオトリも気づいてたんだ、見下されたとか勝手な妄想で逆上して、

だから 叱った。」


オオトリも怯えた同じ黒目で観られる。


「でっバカトリオに次の標的はお前が良いんじゃないかって言ったんだ、

俺はサラを助けたし、お前のことも手伝ったんだぜ、お前がオオトリから皆んな助けようと?

自分から離れるように話した時みんなにコウキのためだって言ったのも俺!」


信じらないことだが昔から共にした時間でコマチは本当のことを言っていることが分かってしまう、

足がすくみ恐怖で震えている自分に怒りが湧いてくる。



「今回は自分で罪を背負うんだなぁ

あの時とは違うってかよ。」

「違うッ!」


「違わねぇよ、お前なら知ってるよな昔、今のお前と同じ様な暴力を受けてた

サラちゃんが助けてくれたでも...

まだ助ける力が弱かった、結局イジメは続いた。」


手を開いたり閉じたりして過去の出来事を思い出していたがコウキの方に振り向くと拳を強く握った。


「お前はサラと親友を天秤にかけてサラを選んだ、

コイツは反撃して来ないって舐めたんだよ!俺の人生を狂わせたのは運命なんかじゃないお前だ!!...だから俺も、もう神頼みなんかじゃなくて俺が決めるんだ。」


眼が乾燥して痛い、でも涙は一滴も流れないきつい時こそ考えるコウキはこんな時でもこんな時だからこそ、頭を回していた。


「僕はそんなこと思ってない

みんな皆んなも、お前も友達だと」

あの時のコマチには届いたかもしれない言葉だったが、それを過去の出来事が全て理解させようとしなかった。

「お前は裏切ったんだ、悪いのは俺を見下したお前だぞ。」


黒板の横のテーブルに置かれた、重い機械をゆっくりと持ってくると

机の前に立つ、コウキの机の前で持ち上げる。

「コマチ!降ろせ、」


「知るかよでも

大事なもんなんだろぉ!!」

バコンッ!

机に持ち上げていた物を力一杯叩き込む、大きく音を立てて傷が広がるとまるで血液のような黒い液体が飛び散る。

切れた。


「きったねぇな腐ってんのか?不良品かよ、

マジでわかんねぇなこれの何が大事なのかね。」


コウキが覆い被さり怒りに任せ爪でコイツに襲い掛かる。

「お前ぇ」

コマチも咄嗟のことで驚いたが、それを見越していた様にコウキを投げ飛ばす、

机に体を打ち付けられ脱力する。


「やったなぁコウキもう違うんだ、お前はもうヒーローなんかじゃ無い、

みんなみんなみんな!僕の味方をするんだ!

スゥー、誰かー助けてくれーコウキが暴れてる!!

早く呼んでこいよ!バカどもが!」


わざとらしくない悲鳴を上げると誰かに指示を出すように大声を出すと、近くの廊下からどたどた足音が遠ざかっていった。


「やっとだよ、アイツらが来る前にお前を痛めつけとかなきゃな!」

イタズラで冷ややかな笑みで腕を摩るとコウキに目を合わせる、

コウキも同時に立ち上がり目を合わせる。


間合いを詰める剣士の様に

二人共一歩一歩と近づく、


同じ傷跡同じ筋肉量同じ右腕に

力が伝い振り落とす振り上げる交差して顔を狙う。

ゴツッゴリッ


鼻血を流すコウキも掠れた血の道にまた流す、

「時間はかかるかもしれないけど、

また昔みたいに、コマチ!」


「無理だねお前はもう、俺の敵でしか無い。」


二人の少年は同じ人間だったでもある一件で片方は闇を持ちもう片方は傷を背負った。


「俺らは昔から友達だった」


「お前と一緒なんて反吐が出る」



「僕も昔のようにはもう成れないよ?」

「俺はまだまだ諦めるつもりはない!」


古い綺麗な写真に三人の笑顔

2人の脳裏に一枚の記憶が重なるが、拳が、気持ちが真反対に交差する。



もう言葉を発する力もないのに拳だけは硬く

強く握り振る、先にコウキの拳が届いた最後に皆んなとした遊びコウキに力を与えたのかもしれない。

いつのまにか喧嘩の最中移動していた二人、

コマチは少し飛ばされただけで教室のドアに体を打つ。


「ハッハ..間に合った..」

愉悦に浸る様な邪悪な笑顔にニヤついた聲、

ドアにもたれたコマチのそばにゾロゾロとみんなが着く。


みんなの声が聞こえたが、

コウキとコマチ、立ち位置は変わったが親友との久しぶりにした対等な喧嘩に何か達成感の様な物を感じていた。


コウキはもう意識を保てなかった、

足から力が抜け前のめりに倒れ込む。

トスッ



「何をしてるんだよ...コウキ、」


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