第9話 同じ


少年少女が走り出したくなる様な空

生い茂った草が青く伸びる、

校庭のハズレ。


「あったあった!皆んなこっち!」

木が取り囲み広場に入らないと外からも見えない場所で草をかき分けていた少年が呼ぶ、真っ先にデタオが食いつき何かを捕まえた手を見る。

続いて来たのはサラ、その後にカツキとマドナが枝に絡まりながらも少年を囲むように集まる。


「おおコレは!」

 タカラヤモリ

皆んなと図鑑の写真と本物を見比べたり、説明されている文を読んだりして珍しさなどを話す。



「ヘー、タカラヤモリかー」

名前の通り綺麗に光る目を見ると

コマチには満面の笑みの彼女が見えた。

「ハッ...フフフ、」


「何嬉しそうに笑ってんだよ。」

「いいだろ別に、よし次は何する皆んなー」


マドナがそろりと手を挙げるとモジモジしながら話し始める。

「わたし最近ね長距離の記録が伸び悩んでるの、だからアドバイスくれない?」

「まかせてよ、俺最近は調子良いし。」


コマチがどう記録が変化したのかを優しく聞いて、何故そうなるのかを教えているが、

突然、

「胸でっか!」

「わかる!」

「ゴクリ!!」



「馬鹿!」

男共の様々な反応に驚き数秒遅れた、

サラは1番近くにいたカツキにチョップをする。

「なんで俺だけ...」


走る時のフォームをとりどう悪いのか見直し

をしようと、足や腿の筋肉を見るためコマチは腿の下の筋肉を人差し指で触る。


「いたっ、そこは?」

「多分筋肉の疲労だよ、練習しすぎてるんじゃない?、一旦記録は諦めて筋肉を休めることも重要だよ。」


「ん?じゃあもう次いいのか?」

「うんありがとうねコマチくん。」


「ん〜そうだな、じゃあ次はサッカーなんてどう?」


コマチが無邪気な笑みを浮かべ赤いボールを持ちながら提案する、皆んなは少し躊躇しながらまたサッカーコートに足を踏み入れた。


「じゃあ誰がゴールキーパーやる、」

「そりゃカツキだろ女の子にやらせるつもりかよ!」


「ああ、そうだよなぁ、俺はいつもサラにど突かれてるから慣れてるしなぁ、って俺ばっかかよ!」

腹を抱えて笑っているコマチを中心に

少しずつ苦笑いが広がったが、

本心は誰も笑えなかった。

何故かは分かっているカツキは静かに、


「...じゃあ俺がやるで良いよな皆んな...」


コマチがボールを持つところから始まった、

デタオに少し早いパスを出すと、


デタオは足を前に出すがまた取れない、と思った一歩が、届いてしまう。

「うおー!デタオナイスゥ、」

デタオが少し運んだ所で誰にどこに出そうか悩んでいると、コマチがちょっと強めに指示を出す。

「デタオ早く出せ!」

「えあ、うマドナちゃんパス!」


「ハ、ハイ、え〜とコマチくん頑張ってください。」


ゴール前までパスを通すと

コマチが綺麗に受け取り、シュートする。


「くそーもっと練習しておくべきだったか〜!」

カツキはグローブを外すと、悔しそうに地面に手と膝をついた。


コマチはシュートの勢いのまま走り自陣まで戻り一直線に向かう先で、サラとジャンプして清々しい笑顔でハイタッチをする。


「ハアー!やったー!」


(君と、いやみんなと遊ぶのって楽しいんだぁ楽しいね楽しいね楽しいね楽しいねぇ)

「サラちゃん...」


「?どうしたのコマチくん。」


ずっと前からこのメンバーだった気がするほど、笑い合い、笑わせ笑う関係、皆んなで一つの惑星系の様にコマチが自然に混ざり馴染んでいた。


そんな楽しんでいるグループの背中を眺める

もう

一人のはぐれた少年


あれは皆んな。

コマチと仲良くする皆んなを見ていたのはこの前より傷が減った、でもその代わりに頬に大きな綿の絆創膏を貼っているコウキ。


「ウゥゥ...ゥア ハッハッハッ」

赤い物と窓と机を見ると思い出す様になったしまったトラウマ、うめき鳴くと息がし辛くなる。

僕は間違ってたのかな...あの時


普段通りいつもの様にいじめられてた、

僕はついにやった。

怪我を負わせてしまった。


「どけ!カドツク!.........あ、」


みんなの音が聞こえる。

サイレンが僕を責める声が、


何人かの大人に連れて行かれると、暗い木で作られた壁と大きめの窓しかない部屋でパイプイスに座らせられ、身じろぎ一つできない様に腕を後ろで捻り上げながら上から押さえつけられた。


そして色々聞かれたが、僕は何もせず何も話せなかった、放心状態で只々時間が過ぎる。


その日の昼間の間に親が学校に謝りに来た、無抵抗な僕を人形の様に動かし頭を下げさせる。

それでも止まらない

校長先生や生徒指導の先生の淡々とした口調での話の中から聞こえてくる責任、お金、少年院、などの言葉。

相手の親の罵詈雑言


だんだんと蝕まれて

家でのいつも優しくお母さんが別人になってしまうのを後頭部で感じる、

髪を握る腕に力が入る。

「何..しsてん..のよ?!」


コウキが咄嗟にだって机がとか言ってると

また震えた声で怒られる。

「嘘言わないの!

そんな嘘までついて、何がしたいのよ、他の子にまで怪我させておいてふざけないで!!」


お母さん似の何かは、背後に大きな窓があり絶望とも怒りにも見える真っ赤にした顔で僕を叱る。


中学3年生のコウキには簡単にトラウマを植え付ける要因になった。

頬の傷もその時に付いた。



今もコウキの手を震わせる、

アレは僕がやった事だ、...もう決めた事だ、

誰も味方してくれなくても、一人でもやらなきゃいけない...


コウキは沈んでいた顔は少しだけ前を向き、

窓の外に映る陽の光が目の中に灯る。


気だるげに頭を掻いていると

今まで見えていなかった物が見える、空の端っこから覗く黒い 頬の傷と同じ様なヒビ、


自分の体に傷をつけてはいけないのではと気づいた時コウキには何故か不思議と高揚感が湧き上がった。

未知の存在が恐怖の対象から、

自分の傷を知らせてくれる味方の様な存在に変わろうとしていたからだった。


枯れ葉が音もなく散り

子供の足によって踏み荒らされる。

それが一枚一枚と落ちて繰り返される、  木から葉がのこらなくなるまで、


コウキは学校の皆んなに続き

家で母との会話がなくなり、自分だけ話されて並べられる質素なご飯、母と父の叫び声が聞こえない日も無くなった、

がかろうじて親の実家で過ごせた。

そして無口だった叔父との会話が増えた。


「いじめか?」

第一声はコレだった。

なぜか勘がいい

時間が止まった様に目を見開いて固まった。

「な...なんで?」

「何となくだ、お前が暗くなった気がした、最初は怒られたからとか喧嘩したからだって思ってた、でも長いこと見てた俺には違う気がした。」


「最近服めっちゃ傷んで無いか何か硬いブラシで擦ったみたいに。」


叔父さんの


「保健室から絆創膏がなくなる事があったって聞いたよ」


一言一言が


「皆んなからお前の話を聞かなくなった」


話されるたびに涙が出てきたけど、

強く引き締まった目頭、

涙を目に貯めて

堪える。


「辛かったろ、コウキあんなに一人で溜め込んで、親が校長に先生の教育不足だって言って、校長も会議で厳しく言ってたし、

他の先生はあのオオトリの味方だ、

でも俺だけはお前の味方だ、


諦めなかったな、それがお前の強いとこだ、もう安心しろ助けてやるよ、アイツらぶっ飛ばしてやる!」


肩を叩く力強いなぁ痛いよ、でも優しい

わかるこの人は優しくて強い、ヒーローみたいなひとだ本人には言ってないけど昔は憧れたりもした、この人なら、助けてくれる。


「...ありがとうでも、

コレは俺がやらなきゃいけないんだ、

もうあの時みたいな後悔はしたく無い。

いつも相談乗ってくれてありがとう

タムラ先生、ッあ間違えた叔父さん。」


「どっちでもいいよ、今のはマジアドバイスだからな。」

グッジョブのハンドサインでキザに帰っていく、母方の叔父さんのタムラが。

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