第23話 最終話

「オイオイ、それは・・・・」父親は困った顔をしている。

池袋のおもちゃ店で、可愛い男の子は自分よりも大きなおもちゃの箱を持とうとしていた。

「それがいいか、よしよし、じゃあお金を払いに行こうな」

「こんな高価なものを・・・・」

「いいじゃないか、結婚祝い、出産祝いだ」

まるで祖父と初孫のようにレジに向かった。

それを少し遠巻きにみながら、子育ての事を話していた母親は

「本当によろしいんですか? 」夫人に父親と同じ表情を見せた。

「いいのよ、それと、これ、受け取って」夫人は中高生用の封筒型のお年玉袋を彼女に手渡した。

「いえ、いけません、あんなおもちゃまで買っていただいているのに」

「受け取って頂戴、私・・・あなたに謝らなければいけない」

「謝っていただく事は無いです。感謝しています、彼を励まして下さって。逆に私の事でご迷惑をおかけしたのに」

「これから先、しばらく連絡はしない方が良いと思うの。私達はあの家に住んでいるから、気が向いたら遊びに来てちょうだい。

実は私ね、あなたを雪の精だとか言っていたの、ごめんなさいね。もう、マンガの読み過ぎで恥ずかしいわ」

笑って話す夫人に彼女は別の事を切り出した。

「レシピ、本当にありがとうございました。あのケーキはみんな大好きで、よく作るんです」

「そう、それは良かった、彼が引っ越すときに渡しておいたの」

「聞きました。本当にありがとうございました。

お二人とも私達のこと、本当に祈って下さって」

「え? 」

マスクの下の夫人の驚いた顔に、彼女は自分の顔を近づけ、小さなやさしい声でささやいた。


「私はあなたが思った通りの生き物です」


すると数秒遅れで

「ママ! おもちゃ買ってもらった! 」

「よかったわね」母親は子供の側に戻り、三人は街の中へとまぎれてしまい、夫婦もカメラ店へと向かった。


「どうした、お祝いに渡したお金が惜しいか? 」

「え、カメラ代が減っただけでしょ? 」

「足りなかったら下ろすさ」

夫婦の会話は何も考えずにも出来るものだと、夫人は思った。

一方、店に入り、ずらりと並んだ展示品のカメラを見た夫は

「すごいな、さすが東京だ! 」人目を気にせず、まるで子供のように楽しげにカメラを触りはじめた。

「ああ、良いなあ、すごいな」と何枚か店内を映したものを消去している夫に、

「消去は私がしてあげる、次のカメラを触りたいでしょ? 」

「あ、ああ、頼める? 」

「ええ、簡単だから大丈夫」

彼女は次々に写真を消していった。夫が撮ったものではない、同じような店内の写真まで。その姿に夫は

「お前どうした? えらく熱心に消去してるな」

「そう? 家内安全のため」

不思議は感じながらも、夫はカメラのシャッターを押した。


妻は同じ動作を繰り返す中、外で雪が降り始めたことを知っていた。


             終

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シュンメトリア @watakasann

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