後編『御子柴陽介の支払い』
わたしはまたトリタテ屋の仕事に戻った。
柱間陽兵君の経済状況は相変わらずのままだ。
ちょくちょくお金を借りては何かしらのプレミアものを引き当てて支払いをしてくる。最近はカードゲームのレアものを当てたとのことで、小銭を大金に変えていた。
どうやら彼は天性のツキの持ち主らしい。
これからはわたしに株の情報なんかを教えてくれるらしい。もちろん彼への手数料もしっかり契約させられた。
黒井アゲハさんは最近映画への出演が決まったらしい。もっとも銀幕での演技ではなく、声優さんの仕事ということだったが、ますますトリタテの芝居も大掛かりなものになっている。
でも彼女と真剣に演技して、役を通して心を通わせるのは、わたしにとっても大切なひと時なのだ。
雲居惣治さんは、まぁとくに変化はない。いつも猫を膝に抱き、お金があれば支払ってくれるし、なければわたしが希少な本を買うことにしている。
そうそう読書はわたしが最近になって始めた新しい趣味なのだ。
休みの日なんかに喫茶店に出向き、のんびり本を読んでいることがなによりの楽しみの一つになった。
サキちゃんはどういうわけだか小銭を借りては、わざと返済日に返さないというのを繰り返している。もちろんわたしが取り立てに出向くわけだが、そのたびにコンビニで山ほどのスイーツをおごらされる。
でもまぁわたしにとって、これもまた楽しい日常の一つになった。
もちろん顧客との距離にはいつも注意している。
猫田老人とはもちろんラップバトルだ。なにしろ勝たなければ回収できないのだ。日頃からリリックという名のダジャレ帳をポケットに忍ばせるようになった。
まぁ勝敗は五分五分というところか。
ときどき炸裂する強烈なおやじギャグにはまだまだかなわないが。
露木葉子さんからはあのあと、ちゃんとトリタテをさせてもらった。もちろん髪を切って会いに行った。
そしてどういうわけだか、彼女の家で、ご老人たちと共に夕食を食べて帰るのが習慣になった。理由は簡単、葉子さんからトリタテにくる前に買い物を頼まれるからだ。せっかくだから食べていきなさい、というのがいつものパターンになった。
そしてミスティさんとは相変わらず楽しく働いている。
トリタテがうまくいったときは天使の笑みを、失敗したときは悪魔になって容赦なくわたしの給与を削りにかかる。
仕事は楽ではないが、わたしは優しい人たちに囲まれていて幸せだ。
――世界にはやさしさと善意が確かに存在する――
今度はわたしがそれを与えられる人間になりたいと思っている。
まぁ仕事柄、お金の貸し借りを通してだけれど。
かくしてわたしのトリタテ日報はこれからも続いていく。
~終わり~
トリタテ日報~ハーフ&ハーフ3~ 関川 二尋 @runner_garden
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます