最終回 無自覚に色々やらかした結果、こういうことになりました。
ボクは今、礼拝堂の最前列の席でヴァリターと横並びになって座っている。
「……そ、そろそろ
ボクは、絡めるように繋がれた手を見つめながら、帰宅の時間が迫っていることをヴァリターに告げた。
実はあの後、ボクは情けないことに腰砕け状態になってしまった。
立っていられなくなって、ヴァリターに支えられながらここに座らせてもらったわけなんだけど、『もう、遠慮はしない』の宣言通り、ヴァリターからの攻撃(?)は、まだ続いている。
『座っていれば安全だから』なんて言いながら、ヴァリターは頬に、おでこに、それに、く……唇にとキスの雨を降らせてくる。
何かのタガが外れたようなヴァリターを目の当たりにして、ちょっと身の危険を感じている。
落ち着いてもらうためにも、ここは一旦距離を取った方がいい。
だって心臓が持たないし、何だかこのままじゃ……。
物理的距離を置くことで冷静になってもらおうと、ボクは『天界へ帰らなければ』と告げたんだけど……
「このまま、俺が天寿を全うするまで下界にいてくれないか?」
ヴァリターが熱を帯びた目でボクを見つめながら、ボクの予感が現実になりそうなセリフを言った。
そして、絡めるように繋がれたその手にキュッと力が込められた。
(ち、ちょっと待って……それって……)
その瞬間、騎士団宿舎でみんなから言われた『セクハラ発言』の数々が、次々と脳裏に
赤くなってしまった顔を見られないよう、ボクは急いでヴァリターから顔をそらせた。
「い、今はその、お互い気が
ボクはそう言って気合いを入れて立ち上がると、逃げるようにフワリと宙に浮かび上がって祭壇上空の『昇天ゲート』を潜ろうとした。
……のだが……
コツン!
(ん?)
コツン! コツン!
「アレ? えっ、な、何でぇ!?」
軽い衝撃と共にゲートから弾かれてしまった。
よく見ると、昇天ゲートには不可視のシールドが張られていて、潜り抜けることができなくなっている。
急いでゲート脇のディスプレイ画面を確認すると、そこには『只今、閉鎖中』の文字が!
「んなぁっ!?」
「その様子では、昇天ゲートは閉鎖中……といったところか」
ボクを見上げながら、ヴァリターが余裕ありげな表情でそう呟いている。
今は下界人だけど、本当は天界人のヴァリター。
天界の事情に詳しいらしく、ボクの今の様子から、下界人には見えないはずの『降臨(昇天)ゲート』の状況を正しく割り出してしまった。
だからだろうか……。全てを見透かされているような気がして、何だか、追い詰められたような気持ちになってしまった。
そんな心理状態のボクに向かって、ヴァリターがフッと微笑みを浮かべたかと思うと、おもむろに手を差し伸べながら言った。
「もう、礼拝堂の閉扉時間だ。さあ、一緒に帰ろう……、ガーレリア」
ボクのことを、
しかも、今の名前で……
ズッキュ——ン!
(はうっ!?)
何かに撃ち抜かれたような衝撃を受けて、ボクはヘナヘナと地上へ落下した。
すると、そうなることが分かっていたかのように着地点で待ち構えていたヴァリターに、ボクはお姫様抱っこで抱き止められたかと思うと、そのままレッツェル子爵家へと連れ帰られてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
——天界の研究棟『ガーレリア専用診療室』——
【レファス】「ガーレリアは、まだ帰ってこないのかい?」
【アル】「そういえばちょっと遅いわね……、どうしたのかしら?」
【フィオナ】「……ハッ!? もっ、申し訳ございませんっ!!」
【レファス】「!? どうした? フィオナ」
【フィオナ】「降臨ゲートを開放し忘れておりました!」
【アル】「エェーッ、それじゃあガーラは今頃、ヴァリター君と大人の階段をっ!?」
【レファス】「ギ、ギラファスッッ!! 一緒について来い! ガーレリアに危険が迫っているっ!」
【ギラファス】「……この際、ヴァリターを元の体に戻してやってもいいかもしれん……」
——そんな会話が交わされた後、レファス、アル、フィオナ、ギラファスの四人は、降臨ゲートを (主にレファスが) 突き破るような勢いで、下界へと降臨したのだった——
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、ヴァリターにレッツェル子爵家へ連れ帰られたボクは、天界政府からやってきた
だけど、パパがヴァリターに掴み掛かりそうになったり、それをボクとママとフィオナが必死に止めに入ったり、その隙にギラファスがヴァリターを霊界送りにしようとしたり……と、まあ、色々あった。
その話はさて置き、最終的にボクたちは、条件付き(清い交際)で交際を認めてもらえることになった。
そして、その条件を守りながら半年の月日が流れた今日……
ボクはこれからヴァリターと、『ルアト神殿』で結婚式を挙げる。
かなり急展開ではあるけど、ヴァリターが『『忍耐』のLv.がMAXになってしまった』とか、『これ以上は待てない』とか何とかで、その……ゴニョゴニョ……
ということで、ボクは現在、天界が総力を上げて仕立て上げたウエディングドレスに身を包み、降臨ゲートの前でスタンバイしている。
何故、降臨ゲートなのかって?
それは、バージンロードを歩く代わりに、天界から降臨ゲートを潜って華々しく登場するっていう『ド派手演出』が採用されてしまったからなんだ。
パパ監修のその演出は、一体どんなモノになったのか……
内容を一切聞かされていないから、余計に気になって仕方がない。
「ガーレリア様、ご入場ください」
そんなことを考えているうちに、礼拝堂で待機している下界班(精鋭使徒部隊)から、入場の合図が入ってきた。
ボクは深呼吸をして心を落ち着かせると、今ではすっかり潜り慣れた降臨ゲートから、ヴァリターの待つ礼拝堂へと降臨した。
◇◆◇◆◇
眼前には、会場を埋め尽くす沢山の参列者。
背後には『後光の煌めき』に『安らぎの音色』。
ここまでは予想通り。
だけど『エンジェルたちの空中ダンス』に、『花吹雪』と『星屑の瞬き』がプラスされた『超ド派手』な演出になっている……。
『コレ、逆にボクの存在が埋没しちゃうんじゃないかな?』と思ったことはパパには秘密だ。
で、その演出をプロデュースしてくれたパパは、というと……涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、
「やっぱりまだ早いんじゃ……」
と、呟いていて、隣に座っているママに……
「年数的には、私の時とそんなに変わらないわ。それに嫁に出すわけじゃないんだからそんなに泣かないの!」
と、
そうなんだ。ボクは一応『王家の跡取り』ってことで、これからも天界を中心に生活していくんだ。
でも、ヴァリターが天寿を全うするまでは、共に下界にいるつもりだ。
パパたちのすぐ隣にボクの生前の家族——シューハウザー家の両親の姿もあって、こちらの父親——父さんも、何故か男泣きに泣いていた。
対するレッツェル家の方は、穏やかな笑顔で溢れているっていうのに……。
うーむ、娘を持った父親は、涙もろくなる習性でもあるのかな?
広いホールを見渡せば、国王様と王妃様、それに1歳半になった姫さまを始め、各騎士団の面々や、友人、知人、職場の同僚といった多くの人々で埋め尽くされている。
知っている顔も、知らない顔も、皆、降臨ゲートから現れたボクに拍手を送ってくれていた。
皆の温かい拍手に包まれながら、ボクは祭壇前に立つ新郎——ヴァリターへと視線を動かした。
祭壇前にはお爺ちゃん神父と一緒に、第三騎士団長の儀礼服に身を包み、背筋をまっすぐに伸ばして立つヴァリターが、ボクのことを真剣な面持ちでジッと見つめている。
ボクも生前は、式典などで袖を通したことがあるこの儀礼服。同じデザインでもヴァリターが着るとやっぱり違う。
そう、ヴァリターが着ると……
(はわわっ、カ、カッコいい……)
ドキドキし始めた胸をそっと押さえながら、照れ隠しにエヘヘっと微笑んだボクに、ヴァリターはフッと柔らかい微笑みを返しながら……
「おいで、ガーレリア」
……と言って、その手をボクに向かって差し伸べた。
ズッッキュ——ン!!
(はうぅぅっ!!)
またしても、『狩人ヴァリター』によって心臓を撃ち抜かれてしまったボクは、
もちろん、今回も着地点で待ち構えていたヴァリターに抱き止められた。
「やっと、俺の元へきてくれた。……もう、遠慮しないから覚悟しておくんだ。いいね?」
ヴァリターにそう耳元で囁かれたかと思うと、皆んなの見守るその前で、ボクはヴァリターから、ひと足早い誓いのキスをされた。
同時に、表の鐘塔から祝福の鐘が鳴り響き初め、その鐘の音は、染み渡るようにルアト王国中に広がっていった。
—— END ——
ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりましたが、仕事先(下界)で無自覚に色々やらかした結果、大変なことになりました〜 花京院 依道 @F4811472
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作者
花京院 依道 @F4811472
元読み専。書き始めて半年余りのただのド素人です。 (*´Д`*)『思いやりには思いやりで』をモットーに、楽しく気軽に交流してくださる優しい方を募集しています。もっと見る
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