鏡を壊しても、あなたの顔は綺麗にならない。


 クローン技術が発展していると思われる未来。

「自由に自分のクローンを作れる(壊せる)」「クローンがオリジナルの想定していない行動を取る」という理由のもと、
 自分のクローンをサンドバッグにすることで不満やストレスを発散するという行為が正当化されていた……


 この作品の面白かった点は「クローンを【コピー】というより【別の可能性】の象徴として登場させた」ところでした。

 SFでクローンというと、どうしても無機質なイメージが出てしまうのですが、こちらは温かく生々しい。
 よく考えてみれば、クローンは「ロボット」ではないので、当たり前の話なのですが、上記のような行為にすんなり「YES」と答えるはずもありません。

 短編のなかに登場する人物達は、自分の理屈に基づき、クローンと付き合いをしています。
 道具やペットのように扱う人、同級生や兄弟姉妹のように扱う人、よく似た他人として扱う人……

 その中で主人公はそりの合わない自分のクローンと、文字通り衝突することになるわけです。
 オリジナルにクローンは抗えない。いくらでも操り、傷つけ、壊すことが出来る。
 けれども得られるはずのものはなく、代わりにそこはかとない空虚が続いていく。

 色彩のあるクローンに対比するかのように、色彩を失っていくオリジナルの描写が見事な作品でした。