第309話 大団円

「……ということで、英雄は仲間達の助けをかりて、見事、魔王を倒しましたとさ」


 ベッドの上で金髪の男の子が眠そうに物語を聞いている。


「母様、それ、本当に父様のことのなの? 父様が剣の練習をされているのを見たことはないです」


 母親はにっこりと微笑む。

 二児の母親になったというのに、その容貌は色あせるどころか、ますます輝くようだった。


「父様はね。仲間を大切にしてきた方なの。誰に対しても誠実で、優しくて……」


「だから母様は父様と結婚したの?」


「そうよ。私から求婚したの」


「ええ?」


 息子にとっては不思議なことばかりだった。


 隣で寝ていた赤毛の女の子が口を挟む。


「父様は、いつも母様に優しいよ」


 二人が仲良くしている姿しか、女の子は見ていなかった。


「うん、我が家もそう。ぼくにするように、二人でいっつも顔を擦りつけてるよ。あ、ベタベタするのは母様かな」


 黒髪の男の子が、少し恥ずかしそうに答える。

 整った顔立ちで、緑色の瞳が輝いている。


「ええ? 家ではたまに電撃をくらってるけど……」


 すると、母親は焦ったように、


「さ、もう寝る時間ですよ」


 そう言って電気を消すのだった。


 §


 その頃、謁見の間では、レオンシュタインが歴史作家との会話を楽しんでいた。


「レオンシュタイン様の物語を1冊の本にまとめたいのです」


 頭を下げたまま、作家は話し続ける。


「私の物語なんて、そんなに面白いと思わないけどなあ」


 周りの廷臣達は慌てて頭を振る。

 十分すぎるほど、波瀾万丈だ。

 追放された伯爵家三男が、帝国を築き、5人の美女を妻に迎える物語は、少年・少女文芸では大流行だ。

 それが現実に起こったことなのだから。


「分かりました。私の物語をどうか書いてください。して、作家殿。貴殿のお名前は?」


 歴史作家はその場に立ち上がる。






           「ちくわ天。と申します」






   ノイエラント 「バイオリン無双~音色が領土をつくるまで~」


                完


   最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

                           ちくわ天。2024.5.12   

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(完結)ノイエラント ~バイオリン無双。音色が領土をつくるまで~ ちくわ天。 @shinnwjp0888

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