第9話 厚生労働省機密文書(自然由来生物兵器の使用が疑われる事例について)

東京地方検察庁公安部 笹山原 豪二 様


 先に事案20130522039号にて照会のありました件につきまして、下記のとおり回答いたします。

 なお、事案の重大性に鑑みまして、本件は公文書ではなく、調査者個人の見解を綴ったメモ書きとしての提出となります。

 何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。


1.被疑者X(以下X)が保管していたダニ様小生物の調査結果について

 平成29年2月17日に居住中のアパート内において孤独死しているところを発見されたXの所持品の中にあった密閉されたプラスチック容器の中に封入されていたダニ様の小生物はツツガムシに相違ないことが確認されました。

 疫学的調査を行った結果、封入されていたツツガムシ約5000匹のうち3000匹以上、割合にして約6割の個体がツツガムシ病リケッチアを保有していることが判明しました。

 上記ツツガムシ群の遺伝子同定調査を行ったところ、S県N川流域(編者註:原本においては実名)に生息する個体群とほぼ一致することが確認されました。なお、Xの実家はこのS県N川の流域に立地しています。


2.海琳丸沈没事故に係るアメリカ側関係者の死亡事例に関して

 平成25年5月11日、水産大学の実習船である海琳丸がハワイ沖においてアメリカ海軍所属の潜水艦に衝突され、沈没した事故に関しまして、慰霊式典に参加したアメリカ側参加者に不審な死亡例が相次いでいる件。外務省を通じ現地医療機関等とも連携し調査いたしました。

 確認いたしましたところ、式典に参加したアメリカ海軍関係者12名の内9名が、帰国後に原因不明の倦怠感、悪寒、譫妄等を訴え、7名が死亡していたことが判明しました。死亡を免れた2名に関しては、現在は回復して社会生活に復帰しております。

 死亡した7名のカルテには、所見として「40度近い発熱」「体幹部に発疹」「下腹部あるいは脚部に刺し傷の様な瘡蓋」と記載されておりました。これらはいずれもツツガムシ病の症状に合致するものです。アメリカ国内においてはツツガムシ病の発症例が少なく、早期診断・治療が難しかったことが7名もの死亡者を出してしまった原因の一つではないかとも考えられますが、ここでは判断を保留します。

 死亡した7名の遺体は既に埋葬されており、遺族にも掛け合いましたが、遺体を掘り起こしての調査は断念せざるを得ませんでした。生還した2名の海軍関係者にも調査協力を依頼いたしましたが、2名とも今回の件に関して日本側に反感を抱いており「こんなことになるなら日本に行かなければ良かった」「仲間を殺したのはお前たち日本人の仕業だろう」と、殆ど話も聞いてもらえないまま拒絶されました。

 最後に、これは客観的事実と言うよりはあくまで関係者個人の印象の話となりますが、重要な情報と個人的に思いますので書き添えます。東京地方検察庁様からの照会文書にも記載されておりましたとおり、Xが海琳丸慰霊式典の会場設営アルバイトとして参加していたことは主催者記録からも明らかです。生還した2名の海軍関係者にXの写真を見せた所、2名とも同じ反応を示しました。彼等はXの写真を見てこう言いました。

 「よく覚えているよ。式典中、ずっとこちらを見ていたんだ。瞬きも何にもせずにな。不気味で仕方なかったよ」と。

 

3.平成27年度以降の政界関係者の不審死事例に関して

 平成27年度以降、国会議員をはじめとする国政関係者に原因不明の体調不良者が続出し、うち何名かが死亡した件。当時診察にあたった医療機関の診療記録一式を精査いたしました。

 体調不良者の症状は2で挙げたアメリカ海軍関係者の症例とほぼ同様で、ツツガムシ病リケッチアが原因と疑われるものでした。 その一方で、発症した人々は皆、直近でツツガムシの生息域である河川域や田畑、山林などへは近づいておらず、本来的には感染リスクが皆無な方ばかりでした。そのため、症状からツツガムシ病が疑われはしたものの、感染源への接触可能性が無い以上、その可能性は低いと判断されてしまっていたようです。また、発症した方々の一部は、その初期症状から単なる風邪と判断し、医療機関への受診が遅れたことも、症状の重篤化の一因と思われます。いずれにせよ、これらの経緯及び初期診断の妥当性に関しましては、厚生労働省においても後日改めて精査する必要があると考えております。本文書はあくまで東京地方検察庁様からの照会に対する回答ですので、関係者の責任問題等に関しては、また別個に議論すべき話題と考えております。

 医療機関での調査結果を受けまして、保健所と協同で国会議事堂敷地内における害虫駆除・防除作業を行い、駆虫した小生物群を回収し調査いたしました。結果といたしまして、議事堂内並びに議事堂に至る通路の各所からツツガムシの死骸が発見されました。そしてそれらのツツガムシのうち、約4割からツツガムシ病リケッチアが検出されました。遺伝子同定検査の結果、被疑者Xの保持していたツツガムシ群と99%以上一致する個体群であることが判明しました。

 これらのツツガムシ群が、政界関係者の原因不明の疾病の原因であるかを究明するためには、より詳しい調査を行う必要があります。ただし、実際にそのような調査を行うことは、個人的には極めて難しいのではないかと思います。もしも被疑者Xが国政関係者を殺傷する意図をもってツツガムシ病をばらまき、そしてそれが功を奏したのだと判明すれば、これは国権の最高機関に対するテロ行為以外の何物でもなく、文字通りの重大事態に他なりません。あらゆる省庁、あらゆる部署部門の責任問題が生じますし、国民に不安や混乱が広がることも必至です。感情的な文章となってしまい誠に申し訳ございませんが、本件に関しては極めて慎重な判断が必要かと思っております。

 最後に、照会文書で回答を求められていた件につきまして、客観的な事実のみお答えいたします。国会議事堂敷地内でツツガムシの死骸が発見されたのは、検察庁から提供のありました監視カメラの該当区域――国会聴講人として敷地内に立ち入った被疑者Xの姿を捉えた場所――と完全に一致いたしました。


4.被疑者Xの死因について

 Xの死因究明調査結果についてご報告いたします。死因はやはり、ツツガムシ病リケッチアによるものと判明しました。Xの遺体の各所に刺し傷と思われる瘡蓋が複数見られること、遺伝子同定検査の結果、遺体から検出されたリケッチアと報告事項1にて検出されたリケッチアが99.8%の割合で一致したこと。これらの理由から、恐らくXは、ツツガムシを扱う際の防除措置が不適当であったことから、飼育容器から逃げ出した複数の個体に刺されて同病に罹患したものと推察されます。ある種の自業自得と言えますが、Xが居住していたのは賃貸の集合住宅であり、逃げ出した虫群が周囲に被害を出す前に事が発覚したのは不幸中の幸いと言えるかもしれません(聞き取りの範疇では、Xの周辺住民でツツガムシ病が疑われる方はおりませんでした)。


最後に

 本件につきましては、事案の重大性から厚生労働省内部でも公文書として発出するか否かの議論が続いております。場合によりましては、関係省庁の上の方々の間でのお話となる可能性も伺っております。繰り返しとなりますが、本文書はあくまで担当者個人の見解を記したメモとして扱っていただけますと幸いです。最終的に東京地方検察庁様からの依頼がどのような扱いとなるかは現時点では分かりかねますが、本文書の取り扱いにつきましては、十分にご配慮願います。



※掲載にあたっての補記

 本件について、東京地方検察庁から厚生労働省宛の依頼文書、また厚生労働省から東京地方検察庁宛の回答文書が発出された公的記録は確認できなかった。

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Monstrous Being 時田宗暢 @tokitamunenobu

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