第4話 大切なもの
完成したサンドイッチをラップで包み、バスケットの中に敷き詰める。黄色、桃色、緑色、色とりどりで今すぐ食べてしまいたい。羽奈は優の方を振り向き、完全〜!とピースをする。
優はくすっと笑い、同じようにピースをした。
着替えよっか。羽奈はそう言うとクローゼットに向かって歩いていった。優もその後に続く。
優はいつも通り黒のパーカーに紺のジーンズ。これが一番落ち着く。
「羽奈〜?準備出来た?」優は浮き立つ気持ちを抑え、問いかける。
「うん!」羽奈は顔を赤らめながら部屋から出てくる。優は目を丸め、自然と羽奈に見入っていた。爽やかな白のワンピースにピンク色のカーディガン。そのシルエットはモデルの様で、何だか特別な気持ちになった。
「凄い似合ってるじゃん、!可愛い。」優は思いのままに羽奈の服装を褒める。
「えへへ、そうかな〜?何だか恥ずかしー笑。」羽奈はそう言いながらも嬉しそうな表情を浮かべている。
「行こっか。」
「うん!」優の手を取り、羽奈は片手にバスケットを提げ、玄関に向かう。お気に入りのブラウンの厚底ブーツを履く。優はいつもの白スニーカーだ。扉を開ける。空は晴れ、雲ひとつ無い青空だ。絶好のピクニック日和に羽奈は微笑む。優も嬉しそうだ。
2人で手を繋ぎ10分ほど歩く。着いたところは広い公園だ。おにごっこをしてきゃっきゃと楽しむ子ども。テーブルを囲み、何かこそこそと、けれどその隙に何かわくわくしているような表情を浮かべるママ友。ベンチでお母さんの本の読み聞かせにうとうとしている小さな子ども。
そのさまざまな光景が羽奈の目には平和に映る。優は手をかざし、太陽の光に眩しそうにしている。
「あの大きな木の下で食べよ。ちょうど日陰で涼しいよ。」羽奈は優を誘導する。吸われるように優は羽奈に着いていく。木の下は木漏れ日で何だかエモい写真のように見える。
2人は木の下に座ると、バスケットからサンドイッチを取り出す。やはり上手くできている。羽奈は再び笑みを浮かべる。これを自画自賛という。
「いっただっきまーす!」羽奈は大きな口を開け、卵サンドを頬張る。卵とマヨネーズが絡んでまろやかな甘い味がする。優はハムサンドを手に取り、端の方を少しかじる。パンの香ばしい香り。優はそれだけでも満足だ。中のハムとレタスは食感が違ってまた面白い。優の幸せそうな表情に羽奈の口角も上がる。連れてきてよかった。そんなことを感じながら羽奈は空を見上げる。緑の葉は5月を感じる。空の青は羽奈の心のように澄んでいて、とても気持ちがいい。
「美味しい。」優が呟く。
「ね!2人で作ったから美味しさも2倍だよ〜!」羽奈が笑う。すると優も笑う。やっぱり2人は見えない糸で繋がっている。連動しているんだ。幸せそうな君がここにいる。
これだけ幸せを感じると、過去のことを振り返ってしまう。羽奈はいつもそうしてしまう。考え方の癖、なのだろうか。そう。優には、残酷な、それでいて酷く憎い過去があった。
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