じゅうかぞえたら

脳幹 まこと

じゅうかぞえたら


 今日はパパと一緒にお風呂に入ることになった。随分、久しぶりになる。


 その場で服を脱ぐと、パパが洋服かごの中に入れてくれた。


 早速お風呂に入ろうとする僕を、パパは引き止めた。


「まずは体を洗うんだよ。黴菌バイキンがいっぱいついているからね」と優しく言われたので、僕は洗面器を使ってお風呂の湯をすくって、体にかけた。

 少し熱かったようにも思えるが、外は寒いのだから、これくらいがちょうどいいのかもしれない。


 続いてボディソープを手の平につけて、両手でこすり合わせた。

 もこもこと泡が出て面白い。

 パパは後ろでにこにこと笑っている。

 その泡を身体中をつけると、良い匂いがした。


 泡をお湯で洗い流したら、いよいよ待ちに待ったお風呂だ。

 わくわくしながら、お風呂に張られたお湯を見つめる。


 パパのシャワーが、今日は随分長く感じられた。

 きっと、遠足の前の夜がとても長く感じられるのと同じことで、楽しみを増やすための神様のいたずらなのだと思った。


 そんなことを考えている内に、シャワーの音は止んでいて、パパがいつの間にかお風呂に入っていた。待ってたのに、ずるいぞ。


 お風呂に肩まで浸かる。体中がぽかぽかするのを感じた。

 今日は珍しいことに、橙色の入浴剤まで入っていて、みかんの匂いがしている。天国にいるようだ。


 お風呂に入っている間、パパは僕に色々なことを聞いた。

 隣のケンちゃんのこと、小学校のこと、猫のタマのこと、パパのこと、そして、ママのこと……


 そんな話をしている内に、頭がぼーっとしてきた。

 汗も沢山かいて、喉も渇いている。

 そろそろ、お風呂から上がろうかとした時、パパが人差し指を出して「お風呂に潜って、十、数えたら、出てもいいよ」と言った。

 湯気のせいか、パパの顔はよく見えない。


 早く出たかったので、すぐに潜った。パパがいーち、にーいと声を出しているのが聞こえる。


 さーん、

 しーい、、


 ごー、、、



 ろぉーく、、、、、




 しぃぃぃーち、、、、、、、





 気持ちが悪い。息が苦しい。


 もう我慢できないと、顔を出そうとするが、それは出来なかった。


 頭の上から強い力がかかっていて、動かせない。

 何度か首を動かしてみるが、ダメだった。身体をジタバタさせて、少しだけ水面から顔を出すことが出来た。


「けほっ、けほっ、パパぁ、パパぁ」


「すまん! 亮太! すまん! すまん!」


 手足が痺れる……

 力が抜けていく……



 僕が最後に見たのは、大きな手の平。





 ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!!






 こぽ…………

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