第56話 世界。その後

 シンが言ったように、人口は抑制され、寒冷化も起こった。

 人類として正しい方向なのだろう。


 人口を減らしたのは、主にアジア。

 これにより、一時的にヨーロッパは活気を取り戻す。


 だが、備えはある程度できていた国は、ダンジョン内で形を作り、新たなる国家形態を初めて行く。


 そこから、復活の音頭をとったのは、上位の駆除従事者それも、進化した人たち。

 本やネットで、あっという間に基本知識を吸収。

 超人的な体力で、難題を乗り切り、問題点を改善していく。


 そこに目をつけた、一部先進国。

 40階以上に人を送り、進化させる。

 無論、企業も同じ。


 進化すれば、知識など、一瞬で得られる。

 そのため学歴など、問題にならなくなり、社会全体が変わっていく。

 

 地上が壊滅したため、復興の予算が組まれ、新たなる都市が、計画的に造り直されていく。

 その点において、日本は被害がなかったため出遅れたが、そこはそれ。余分な支出がないため、貨幣を含め暴落したアメリカのフォローをして、イニシアティブを見せる。


 また塩害については、東北の震災経験から日本は能力を発揮し、急速な土壌改善を行う。

 初期には、石灰と、もみ殻灰を利用し洗浄し廃塩を促す。


 その後。耐塩性の強い植物から作付けして土壌を改善する。

 無論その間も、売り物になる植物。アスパラガスやサトウダイコン。ワタやオオムギ。ライムギ。たかきび(ソルガム)などを土壌や気候、水の有無に合わせて植えていく。


 今回、大部分が海への落下のためか、気温の低下は数度。無論これからまだ下がる可能性は十分あるが、今のところ大丈夫だし、ダンジョンがある。


 人が暮らすには、とりあえず問題がないだろう。



 そうして、知識。体力を大幅に底上げした人類は、今回の隕石落下を教訓にして、10数年で、宇宙開発を再開する。

 実験的コロニーを、先進国が主導し開発。

 地球上よりも、負荷が少ない宇宙空間では、大型の乗機型ロボットが運用されていく。


 そして、衛星軌道上や、月面で隕石落下時の負の遺産が発見され、それぞれの国へ返される。

 内部では何が起こったのかは不明だが、ひどく破壊され、無論機能も停止をしていた。


 そして僕たち家族は、子供が増え25階、45階。

 管理室側で、暮らしている。

 父さんも再婚した。


 そして、進化した人類は、寿命がよく分からない。

 第1世代である、僕たちは、あれから年をとっていない。


 無論。開拓者の宴達もだ。

 彼らは名実ともにトップチームとなり。すべての、駆除従事者チームは、彼らの傘下にほぼ入っている。


 だが、世界中のダンジョンで、50階以上は、誰も足を踏み入れたものはいない。

 50階の守護者は、黒髪のアジア系美人。

 開拓者の宴達は見た瞬間。

 戦うのを辞め。帰ってきたそうだ。


 彼女の周りには弓が複数個浮かんでおり、どこからでも発射される。

 そしてそれは、自動追尾し、刺さると破裂する。


 無論。本人は完全物理防御と魔法防御を装備しており、進化した駆除従事者達よりも、もう二段階ほど早い。

 これは、戦ってみた凪。本人談だから間違いない。

「シンさんやめてよ」

 と泣き言を言っていた。


 魔法も物理も強力。

 攻撃が、ある程度続くと、仲間を呼ぶ。

 そう赤鬼さんと、evo-01Type悪。

 無論。出会った者たちは、死あるのみ。

 逃げられても、evo-01Type悪は、人々を退化させる。


 それが知れ渡り、誰も50階へ、足を踏み入れなくなった。


 そのため、ダンジョンは、現在55階までしかなくなっている。

 それ以降は、シンが何かの実験室として使用しているらしく。

 いや実際。実験室となっているが、ちょっと僕でも引いてしまった。


 各種交配。

 キメラというのだろうか。

 新型生物と言うよりは、地獄の生物? 

 これこそモンスターという感じの者たちが、日々戦っている。

 その状態を、シンはうれしそうに見ている。



 そして、僕たちの子供が、成人を迎える頃。

 ダンジョン内で、アラームが鳴り響く。

「あー来ちゃったか」

 シンがつぶやく。


 そのすぐ後。地球のあちらこちらに、ものすごい圧を持った生命体が、転移してきたように現れ始める。


 僕はコントロール室でモニターを見る。

「あれは、天使か?」

 翼が生えた、白い生命体。

 体全体から、光を発するように光り輝いている。


「うーん。まあ。ちょっとやばそうだから、僕たちは逃げる。ダンジョン管理は君に任せるよ」

 そう言って、転移しようとしたときに、シンをつかみ一緒に転移してしまった。



 一本の柱に、十字架にかけられたような状態で、さっき空に現れた奴らと同じ生き物がそこにいた。


 そこにいるだけで。

 生物として、かなわないと思えるような感じがする。

 人間よりも、上位の存在。

 そう考えれば、しっくりくる。


 ただなぜか、彼の悲しみが、伝わり分かる。

 彼がダンジョンなんだ。

 僕はふいに理解をする。


「何で付いてくるかな?」

 あきれた顔をして、シンは僕に言う。

「まあいい。これで君とはお別れだ。短い間だったが、楽しかったよ」

 そう言って、彼は僕にハグをする。


 白いイメージだった彼は、背中から黒い翼を生やし、空間を開く。

 向こうは真っ暗な、世界。


 ただ。何者かが、這い出してきそうな闇。


 シンが手を振ると、白い天使を縛りつけた柱が、フッと持ち上がり、闇の中へ飛んでいく。

 シンの周りに浮かび上がってくる。

 異形の者たち。

 こいつらは、55階の上にいた実験体達。

 どんどん現れ、闇の中へ入っていく。


 最後の奴が入り、シンが、続いて入って行こうとする。

「このダンジョン。多分数千年は動けるはずだから。面倒を見てね、将。それじゃあ。さよならだ」

 そう言って、ぴらぴらと手を振り。闇へと入って行き、穴は収束し。閉じた。

 僕は訳が分からず、ただ脱力し。膝をつく。



 その後、何とかコントロール室に戻りアクセスすると、僕がマスターになっていた。

 空に浮かんでいた奴らは、シンが消えた、同時刻くらいに、一斉に消えたようだ。


 マスター用の情報へアクセスする。


 シンはここよりも、上位世界の住人。

 さっき現れた、奴らと同じ種族。

 数万年、数億年の長き生活に、退屈となり、彼は生命で遊び始める。

 それが、世界の理なのか禁忌に触れたのか、彼は羽が黒くなり、闇の力を扱えるようになった。

 そして、仲間をだまし。

 仮死状態でエネルギーパックとして使用し、そのエネルギーで空間をゆがめ。自身の存在する宇宙から逃げた。


 彷徨っている中で、地球を見つけて住み着いた。

 そこからは、彼に聞いたとおり、生物を産みだしては、実験をしていた。

 数百年前に、彼を探しに来た同胞を捕まえ、再びエネルギーパックとして使用。ダンジョンを作ることを考えついた。

 時空をゆがめ。維持するエネルギー。

 膨大なものを得て、彼のお遊びは加速する。


 そんな中で、僕は。彼たち高位の存在と、心を通わせることができる因子を持っていたようだ。

 無論シンの心をも捉えたようで、後はまあ甘えっぱなしだったが。


 問題は、僕の能力。その因子が、画期的何かを彼にもたらしたようだ。

 それが彼ら、キメラ達。


 この宇宙に存在するような、普通の生命体では、彼らに対して攻撃をしても何も影響をしない。

 そう。位相がずれている状況。

 だが、その僕の持っていた因子は、そのずれをなくす。


 つまり、今どこかで、シンは彼らと戦争を開始したのだろう。


 状況を見れば、彼はきっと悪魔と呼ばれる存在だが、シンはシンだ。

 彼の帰りを待ち、ダンジョンを管理していこう。


 僕は、家族達と、この地球。

 それに、ダンジョンを管理することに決めた。



「あー意外と、しつこいな。同胞を捕まえたことによっぽど腹を立てたのかな。下位のものなら別に良い気がするけどな。アンゲロイだと思ったけれど、彼ひょっとするともっと上位だったのか? まあ良いけどね。エネルギーがあるなら、彼のおかげで開発できたエーテル体を破壊できる武器。固有振動だから見えないし、内から燃えてくれたまえ」



 どこかで、呼ばれた気がした。

「気のせいか」

「シンにお別れが言えなかったね」

「そういえば、あの鬼達。廃棄してよね」

「あー私の分もお願い」

「でも50階の守護者がいないとまずいよね」

「それは別のものを創ってよ」


 今日も僕は、いや僕たちは、ダンジョンへ籠もっている。




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 えーとまあ、タイトル回収と言うことで。

 天使達との戦いに巻き込むと、今度は終わりが見えなくなりそうなので、これにて終了します。


 ここまで、お読みくださいまして。ありがとうございました。

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辞表を出したら笑われた。退職届を出してダンジョンへ引きこもる。 久遠 れんり @recmiya

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