第55話 意外な結果

 ある程度ダンジョンにこもる人はこもって、地上にいる人は高いところへ移動して、長野県や東北の山間部に人が移住したこと。


 予想される日から2ヶ月前。

 一応確定だろうという、アナウンスが流れた。

「今から、2ヶ月後。北アメリカ大陸西端。予報円は少し範囲が広くなっています。マウント・フッド国有林より以西が危険域となっています」

 そう言って、地図が示される。

 予報円は、直径500kmと書かれている。


「大気や隕石の状態で、変化しますが、落下による被害は。この範囲でかなり大きな物となるでしょう。できるだけ離れたところへ避難してください。また、津波による被害も予想されます。太平洋沿岸全域に警報が出されています」


 まあそんな感じ。

 意外とこの頃には、皆諦めか、疲れかは知らないが、騒ぎには成っていない。



 そして、当日。

 月をかすめ、サンフランシスコやポートランドが、もうすぐ夕方になろうかという時間。

 ある場所で、モニターを眺めている者たちがいる。


 衛星からの画角は固定され、それは一瞬でフレームに入ってくる。

 大気との摩擦で、輝き始めた瞬間。

 それは、上下に割れた。


 そのため、予想から外れ、太平洋内に落ちると思われた隕石は、気まぐれに速度を落とし、大気摩擦と、重力により。

 予測地点へと、落ちることになる。


「ガッデム」

 割れた下半分は頭を下げ、もろに大気の壁とぶつかり、落下し始めた。

 なんといういたずらだ。


 くるりと半回転をして、水泳選手の飛び込みのように。するりと地殻へと刺さる。

 すぐにミルクの王冠のような、壁(リム)が舞い上がる。

 回った下半分が刺さったとき、押し出すように予想以上に大きな波が造られた。



 その後。観測者を立っていられない地震が襲う。


 さて、割れてしまった上半分。

 めくれ返ったようになり、大気とと衝突する。

 その時の熱と圧力に耐えきれず、大きく3つに分かれる。


 うまく、陸地を躱し日本沿岸の2点。

 仙台沖500km地点と、宮古島沖300kmの太平洋側。

 そして、スリランカの東海上200kmへ落下。


 そして、予想以上の津波が各地を襲う。


 だが日本では、プレートの境界のおかげか思ったより地震も強くなく、なぜか津波も来なかった。

 


「あれ? もう落ちたよな」

 そんな台詞が、日本中で起こる。

 日本の早朝。

 最後の景色だと言わんばかりに、太平洋側に集まった人たち。


 沖合に、太陽の光を妙に屈折させる壁が、ぼんやり見える。


 音速を超えた速度で、隕石が大気圏へ突っ込み発生する。

 本来やってくる、衝撃波すら全然来ない。

「どうなったんだ? ラジオ。テレビ」

 だが、ラジオもテレビもだんまり。

『早朝。太平洋に隕石が落下します』を繰り返すばかり。

「なんだよ」


「ああ。ネットが。世界中やばい」

 あわててみると、濁流が押し寄せ。飲み込まれていく。それを最後に通信はどんどん消えていく。


「どうなっているんだ。誰か教えてくれ」

 だが、30分もすれば人々は、思い思いに解散を始めて行く。



 僕たちは、ダンジョン側の25階。ロビーに開拓者の宴を始め、上位の駆除者が集まり中継を見ていた。

 ほんの一瞬のこと。


 隕石が大気圏に突っ込み発光。

 パカッと割れた。半分飛んでいった。

 落ちた。

 まあ一気に速度が落ちたから、数秒はあっただろうか?


 だがダンジョン内は、揺れもなく。何も変化はない。


「おい地上はどうなった?」

 誰かそう言って、周辺の情報を見るが、SNSでも、『何がどうなったんだ?』という書き込みばかり。

 道路情報の、カメラを見てみる。


「何も変わってないなあ」

「地上は、大丈夫なのか?」

「ああ変化なし。すごく静かそうだよ」



 そんな頃。宇宙に浮かんでいる船がいくつか。

 1月前に、飛び出し衛星軌道3万6000kmの距離に漂っている者たち。

 高速で何かが飛んできて、光って土が巻き上がった。

 そこまでは、なんとなく分かった。


 ただここへ来て、もう一月。

 すでに、皆飽きていた。

 期待していたような、地上が炎に包まれることもなく変化はよく分からない。

 夜になれば、電気が消えているのが分かるだろうが、それだけだ。


 水や食料、体を維持するための、人工重力下での運動。

 

 それは月に行った人たちも同じ。

 ただこちらは、いくつかの船をつなぎ、多少広い。

 だが、それもつかの間。

 ないとなれば、青い空と海などを求め出す。


 そもそも宇宙飛行士は、訓練と強靱な精神力により『「最高級」のストレス環境』と呼ばれる国際宇宙ステーションでミッションをこなしている。

 まだ現実的な生活を行うには、厳しい環境。


 一般人が耐えられるのは、いつまでだろうか?

 そう遠くないうちに、新人の宇宙人達は、人から外れ始める。


「さてとシン。何かやったね」

「うんああ。当然だろう。この島国は、君にとって大事な物だろうからね」

「どうやったんだ?」

「簡単な事さ。シールドを張って前と後ろをつないだ。それだけだよ」

「それだけ? この前君の言っていた人口が多すぎるというのが、引っかかっているのだけど?」


「細かいね。そんなことを気にしていちゃ、奥方様達に嫌われるぞ」

「ぐっ。でっ?」

「ああ見事に計算通り。君達のおかげで、うまく割れたよ」

「あっ。あれは、防ぐためじゃなく。殺すため?」


「まあ結果はそうだけど、この星としては被害が非常に少なくなった。気温も良いぐらいに下がるだけで終わるだろう。多少ほこりっぽいが。COP何とかで騒いでいたのを見たよ」

「それはそうだけど」

「君のやったことは、人にとっても良いことだよ」

 シンに言われた、その言葉が。

 その日ずっと頭の中で、繰り返された。

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