第54話 人々はダンジョンにこもる

 シンにお願いをしに行くと、各5階に電波が通った。

 5階、15階、25階…… だね。


 これによる影響は大きかったようで、5階にも拠点が造られ始める。

 3階と4階は洞窟タイプだし、どうしようもないが、5階以上にも人々は増え始める。


 ただ、モンスターも多く、速度系のウルフなどが増えるため、防御が必要になる。

 意地悪なことに、地面は掘ることが出来ない。

 すべて壁はパネルだ。

 何とか、皆は空間魔法を覚えて、資材を運んでくる。


 おかげで、初級の駆除従事者も稼ぎを得ることが出来はじめた。


 まあ。努力をした人だけだけどね。


 そのおかげをもって、人々は、居住範囲を広げ、ダンジョン内に町が広がっていく。



 シンがつぶやく。

「優遇しすぎたな。君と出会って、人間に対し。どうも甘くなっている気がするな」

「僕たちにとっては、ありがたい事だよ」

「あまり残すとね、良くないのだよ。今回の事故で、結構人数が減らせるところなのに」

「地球の状況、あまり良くないのかい?」

「まあ種の淘汰というものは、延々と続けられる営みだから良いのさ。生物の進化のためにもね。ただ。一つの種だけが勝ちすぎると良くない。敵がいないとね」

 そう言って、シンは考え込んでいる。


 モニターだろうか?

 なにかを入力? するたびに、映る絵の形が変化する。

 そしてなにかを、入力したときに、にまっと口角が上がった。


 猛烈な勢いで、表示される内容が変わる。

 普段データなどの入力は、見ないので。シンの思念を読み取り。それがデータとして読み込まれているのだろう。


 やがて、動きが止まる。


「将。君達への朗報だ。ここ日本への被害はかなり少なくなるし、寒冷化も短くなるだろう。そうだな。ポイントとして、今から7日後。宇宙にダンジョンの口を開く。なにも考えず正面に対して、最大火力の……いや、うーむ。火魔法を撃ち込んでくれ。ただし、将。君は自身の魔力のみで撃ってくれ。けっして、全力でとか、ダンジョンの力まで巻き込んで撃つなよ。ダンジョンがなくなるからな。同時にだから、番。ああいや失礼。奥方様も参加だ。3人ともね」


「助かるのか?」

「言ったはずだ、被害が少なくなると」

「分かった。皆に説明してくる」

 そう言って、僕は部屋を出る。


「んんー。将。君はすごいね。僕が昔失敗したのに。君が全力を出せば、あの隕石。座標をずらすことができるのだね。たださっき、しゃべりすぎてしまったが、僕よりもダンジョンの力を使えるというのが少し悔しいかな。君が望めば、ダンジョンは君にすべての力を貸すのだろう。まあそれだと、隕石はずらせる? いや簡単に消滅させられるが、僕が困ってしまう。君にだけは謝っておこう。すまないね。ここは僕の楽しみを優先させて貰おう」


 んーしかし。楽しいね。過去いくつかの国で、酒場にいた下等な人間に対して、甘言をささやき。導いたが、その時人間どもが起こした混乱よりも楽しい。

 さてさて、僕が管理人を捕まえて、数百年。いつ管理者が来るのかは不明だが、いつまでこの状況を続けられるかな。


 その時君は、どうするのかな?


 僕を滅すかい。

 でも僕は、君に力を与えずにはいられない。



 その後、徐々に世界では、情報が小出しに出され、そのたびに人々はうろうろと彷徨う。基本は高所から高所へ渡り歩く。

 諦めた者たちは、ダンジョンへ。


 テレビでは、もういい加減。完全な落下時期や落下地点が計算できたはずとわめいているが、普通は落下2ヶ月前というのがささやかれている。

 場合によっては、数時間前とも言われているが。


 こちらに向かってくる場合、差がほとんどない。そのためある程度近くに来ないと正確には求められないようだ。専門の財団や協会が未だ声明を発表していないのだから待てば良いのに。

 どうせ何もできやしない。そんな冷ややかな意見が、ネット上に流れる。


 そして、1週間後。

「さーて行くよ。用意は良いかい?」

 のりのりのシンが、号令をかける。


「3,2,1,行け」

 その瞬間。浮遊感。

 洞窟の中にいて、目の前は真っ暗。

 だが、躊躇なく魔法を撃つ。


 すると、足下から明るく光る物が、目の前を通り過ぎる。

 見事に着弾。

 すべてが一瞬のこと。


 元に戻った僕達は、興奮気味にシンに聞く。

「すごいスピードだった。僕でも目で見たのは一瞬だよ」

「うん。出たタイミングで撃つって、思っていなければ、絶対無理だった」

 美樹、佳代、凪。3人とも笑顔だ。うまく行ったのだろう。


「お疲れだが、変化がないな。あれで十分だったはずだが」

 いつものことだが、特に表情に変化はなく淡々と答える。シン。


「まあ結果は不明だが、多少でもダメージを与えたなら、大気圏で分解することもあるしね」

 僕がそう言うと、シンの顔にわずかな変化があった。

 だがそれだけで、特に言うことも無く部屋に戻る。

 3人は、実際見たのが忘れられないのか、かなり興奮気味だ。

 4万km/h以上で飛んでいる物を、目で捉えられるのは普通じゃないのだが、分かっているのだろうか?


 バッティングセンターの140kmでも、バットに当てるのは、かなり難しいというのに。

 いつものように、勝手に宴会になった。

 皆仲が良いな。

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