チャプター1-3 番人 

 月が雲に隠れて暗くなるが番人なる存在の気配が暗闇から感じられる。

 異様な音が言語に聞こえる二体の獣と、この廃神社が俺に恐怖を与えていく。


『まずは、邪魔者で腹ごしらえをする。しばし待たれよ』


「えっと……腹ごしらえとは、何を主食でご所望するのですますかね……」


 俺は、動揺して訳の分からない言葉と敬語を口にしてしまう。

 だが、邪魔者こと番人の主食が、何なのかはすぐに理解できた。


 番人たちの見つめる方に懐中電灯を向けると、鳥居の周囲にある神木や地面に足形が大勢集結していた。

 こんな近くまで着ていたことに気が付かなかったのは、さっきのモスキート音で足音が聞こえなかったみたいだ。


「嘘だろ! マジで!」


 俺は驚き、懐中電灯を落としてしまう。

 落とした懐中電灯が辺りを照らす中、俺の左右に風が吹く。

 次に、何かをすすったり噛み砕く音が響いた。

 慌てて、懐中電灯を拾い鳥居の周囲を再度照らすと土佐犬とさいぬが地面の足形に対し泥水を啜るように食し、大蛇だいじゃが神木に巻き付き足形を歯で噛み砕きながら食している姿が確認できた。


 番人たちが移動するたびに『ドタドタ』と暴れてる足音が複数聞こえた。

 恐怖の対象だった足音が、食物連鎖の如く他の恐怖の対象に追われて、飛び回る羽根虫を害虫駆除するように綺麗に駆除されて……腹ごしらえは続いてく。

 

 放心状態で数分立ち尽くしていた俺が、目の前の光景を受け入れたときには、番人が食事を済ませ元の位置に戻っていた。


『迷い人よ待たせたな。生み出す準備が整った』


 番人たちの身体から蒼いプラズマ……のような光る球体が二つ現れた。

 その球体が俺の左右に浮遊して止まる。


「あっ……これは、何でしょうか?」


 少しごもりながら、尋ねると大蛇が舌をチロチロ出しながら音を発する。


『その光を特定の場所に、戻しに向かってもらう』


 土佐犬も鼻を鳴らして、音を発した。


『正しき場所に辿り着き、二つの光を戻せたならば試練は完遂し、夜未帰りよみがえりの資格を得る』


「夜未帰り……とにかく現実に戻れるってことですか!? この奇妙な世界からお去ればできる!」


『奇妙な世界と言うが、勘違いをしている』


『ここも現実だからな』


 興奮気味に口が動き、前のめりで喋ていると番人たちに忠告される。


『どうやら、まだ現実を受け入れてないらしいが……ここも迷い人の暮らす日常と同じ』


『ただ、特殊な入口からしか入れず。干渉するにも正しい手順で来た者だけしか触れ合えないだけさ』


「受け入れろと言われても……理解が追いつかないと言いますか、夢の世界や作り話しの世界の出来事ばかりで、とても現実味がないと言いますか……」

 

 喋りながら、ここに来るまでの光景を思い出していく。

 確かに、あの最寄り駅や坂道までの国道は存在する。

 だが、足音や足形それに影だけの存在など俺の一般常識には存在しない。

 それに俺の住んでる場所に、こんな社も二匹の獣もいないけども……


「ここから家に帰る方法がある。ってことが、分かれば俺はなんでもできます!」


 俺は考えるのを放棄した。


『我らが清めし光がある限り、けがれし残留どもは近寄らない』


『穢れし残留外は、近寄りますのでご注意を』


「あの……穢れし残留とは、なんですか?」

 

 答えは、なんとなく分かるが確認は重要である。


『穢れし黒足のことだ』


『あれは、迷い人を踏み荒らし取り込む』


「取り込む!?」


『うむ。穢れなき身体を求めて徘徊しておる』


『そして、穢れを擦りつけるため』


「待ってください! どんどん知らない情報と言葉の意味が分からないのが増えていくんですけど!?」


『意味。穢れなき身体に穢れを擦りつけるため踏み』


『踏まれ穢れた身体は、腐り堕ち取り込まれる』


「やっぱ、そう言うことですよね……」


 駐輪場でのペットボトルの存在が消えたのが、腐り堕ちたってことなんだろうな。


『受け入れよ』


『現実を』


「むりむりむりむりむりむりむりむり!」


 考えるのを放棄した途端に、恐怖を煽る情報が増えて嫌でも思考を巡らさなければ正気を保てなくなりそうだ。


 それでも、ここから打開するには試練を終えるしかない。

 今だけでも冷静になれ自分!

 自問自答で現実逃避をしてから、大蛇を見る。


 

「分かりました。それで、この光を何処に戻しに行けばいいのですか?」


『一つ目は、ここから左の道を進んだ洞窟の祠に光を捧げよ』


 俺は月の光で過労時で見える道を見つめた。

 大きな竹が生え揃ってるのだけが妬けに目が行く道だった。

 次に、土佐犬の方を見る。


『二つ目は、この裏にある赤い鳥居の先にある社までの道すがらに蜂地蔵はちじぞうが存在する。そこにいる蜂地蔵だけに光を捧げよ』


 なるほど。

 一つ目は洞窟の祠にお供えすればいいとして……


「あの! 二つ目の蜂地蔵とは、もしかして八地蔵はちじぞうのことですか?」


『そうだ。八体いる八地蔵の内の一体が蜂地蔵と呼ばれている』


 なんだか、二つ目はややこしい内用みたいだ。

 一応聞いておこう。


「蜂地蔵の特徴とかって教えてもらえませんかね……」


 大蛇が舌をチロチロさせる。

『行けば自ずと分かる』

『迷い人の心が恐怖に勝てれば自ずと答えは導かれリ』

 土佐犬が視線を向けて付け加えてくれた。


「わ……わかりました。そしたら、順番通り一つ目の洞窟の祠から目指しますね」


 こうして次の目的地が決定した。

 ここから一早く脱出するために行動に移す決心が固まった。


 俺は単純な性格でよかったと、このときほど思ったことはないであろう。

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シャドウ/ステップ 菖蒲 @sweetflag6435

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