チャプター1-2 影歩み



「何処か。何処か。何処か。人はいませんかぁぁぁぁぁ!」


 恐怖で精神が不安定になり勝手に口が開く、寂しさ紛れに声を出してしまう。

 不安を煽るように、草木が揺れる音がするだけで俺は無我夢中で走りだしていた。

 草むららしき場所を通り、けもの道なのかわからないが、とにかく走って進んだ。

 それでも、足音は近づいてきている。

 暗闇のせいで、影は追ってきてるのか? わからないが足音は微かに聞こえるので休んでられない。


「誰か。誰か。誰か。誰か。誰かいませんかぁぁぁぁぁあああああああ」


 暗闇を走っていたので叫びながら、何かにつまずき倒れてしまった。


「痛い……って! 音が近い! 早く進まなきゃ!」


 最終的には、痛みより恐怖が優先し更に道なき道を進みだす。





 この雑木林に入ってから何時間立ったのかはわからない。

 途中でスマホを持っていたのを思い出したが、電源が入らない使い物にならなかった。

 雲が晴れてきて月の光が出てきた。

 少しずつ目が暗闇に慣れてきたおかげで、最初よりは精神が安定してきたのもあり冷静に物事を考えることにした。


 まず、これは夢ではない。

 夢なら転んだときの痛みや手と足の切り傷などがリアルに感じるはずがないからだ。

 それに、身体の疲労や冷汗はどう考えても本物だ。


「夢ならよかったのに……てか、道が消えるし足音と影だけの幽霊……妖怪……はたまたUMAか」


 口に出しても、ここだけが夢と言うかファンタジー……いや、オカルト坂でこんな話しを読んだ記憶がする。

 と言うか足音?

 俺は後ろを振り返って、辺りを見回し気がつく。


「足音が聞こえない……影も見えない……何でだ?」


 もしかして今までのは幻聴や疲労や眠気からくる幻覚だった?

 どちらにしろ、この場所が何処かわからない事態では安心はできない。

 先に進んで少しでも道路がありそうな場所が見えればいいが……


 少し進むと、今度こそ本当のけもの道に出た。

 そこを進むと、山小屋らしき存在が見えた。

「小屋だ! 人がいるかもしれない!」

 俺は、気が緩み走りだす。

 しかし、ドアをノックして声を掛けるが返事は返ってこない。

 仕方なくドアの取っ手に手をかけて引っ張ると鍵はかかってなく簡単に開いた。

 誰もいない暗い山小屋の中に入り、明かりになりそうなのを探すとテーブルに懐中電灯が置いてありスイッチを入れると明かりでが点いた。

「やった! 懐中電灯は使える! 他に何か……あれは?」

 山小屋の中を照らし何かないか探したらローソクとリュックサックが椅子に置いてあるのを発見した。

 そのまま中を確認すると、リュックの中には……軍手、ロープ、かんぱんの三点が入っていた。

 

 ここに住んでる人が出かける準備をしていた物だろうが、今は緊急事態なのであるもの全部借りることにした。


「今は使えるものは全部使おう! と言ってもドアに鍵がないのは不用心すぎてここには長居したくないし……明かりも手に入れたし、一度戻ってみるのもありか」


 手早く小屋の中を物色した俺は、入念に安全確認をしながら来た道を戻った。


 やはり、足音も聞こえないし影も普通だ。


 だが、相変わらず雑木林が広がる。けもの道しか存在しないことと、もう6時間ぐらい時間が経っているのに真夜中のままだと言うこの世界は何もかもおかしい。


「俺は、何処に迷い込んだんだ……まさか、影歩かげあゆみ。オカルト坂から広まったSNSが、現実の話しだったなんて信じられるかよ……」


『影歩み』

 現世に恨みを持ち生きてることが馬鹿らしくなったものが、ある特定の駅に早朝0時に着く電車を降りて改札に向かう所で月と電灯の明かりで生まれた影に飲み込まれ別の時空に迷い込んでしまうオカルトである。


 その世界は、自分が死んだことを自覚していない無邪気な霊魂たちの楽園で、迷い込んだ哀れな迷い人の身体を踏みつけ奪い取る無邪気な亡者たちの住まう世界。


 鳥居や社や祠を目指し這い蹲ってでも命を諦めぬ者には希望が見え隠れする。


 哀れな迷い人に試練を与え無邪気な亡霊を拘束させる役目を背負った番人たちが存在する。


 番人の試練では白骨死体や罰をおかした死者のゾンビの生け捕りなど、おぞましい亡者たちをあざむき指定された宝を納めるように言われる。


 そして、場を管理する揺らめく者は道を示めす。


 お告げを掛け違えると、更なる地獄と言える試練が待っている……簡単に纏めるとこんな内容だったかな?


 妙な書かれ方をしていたから、記憶に残ってたけど……

 あのオカルトが本当なら、あの足音が霊魂?

 そしたら、影は管理者……味方だったのか?

 まだ、俺が出会ってない存在は番人だけか?

 

 冷静になってきても、謎だけが増えるだけだな。


「番人は、どんな化物なのか……」

 

 鬼とか? それともゾンビみたいな奴か? あるいは蛾人間モスマンとか?


「考えれば考えるほど、会いたくなくなってきた」


 でも、この現状を打破するにはオカルトを信じて物語通りに進むしか今は希望がないし。


 そして、懐中電灯で照らしながら歩くこと約30分、最初は暗闇で気が付かなかった青い鳥居を見つけた。

 正直行きたくないが、見つけてしまったものは進むしか希望はない。

「破れかぶれだ! 行こう!」

 俺は気合を入れて鳥居までの草原を進んだ。


 鳥居の目の前まで行くと、更に奥にそこそこ大きな廃神社があった。


「うっ……耳鳴りか?」


 鳥居を潜ると、左右からモスキート音が聞こえだした。

 

 音の周波数が上がり、背筋がむずがゆく感じ始める。


 その音が、段々と言語に変わり……

 

『そこの迷い人よ止まれ』


 ……『ビク!』っと背筋が振るえ身体が反応してしまった。


「ハイ! 止まります! だから、襲わないでください!」


 想定はしていたが、いきなり声で圧を掛けられると怖い。全身が恐怖で震え汗ばむ。


『ここに、来たからには我々の試練を受けてもらうぞ』


 そう聞こえたと思ったら、左右の土が盛り上がり地面から二体の獣……白い大蛇と黒い土佐犬らしい存在が這い上がってきた。


『さて、迷い人よ。生きる希望があれば、全力で試練に挑むべし』


 試練と言う言葉から、これが番人なる存在であると認識した。

 俺は、この世界から逃げ切るために番人なる……二体の獣の言葉に息を呑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る