密告者
かねさわ巧
密告者
「
私を呼んでる? 誰? そうだ……
「夏帆!!」
「びっくりしたー。どうしたのよ? 大きな声をあげて」
「え!? 夏帆! 大丈夫!? 怪我は!!」
「本当どうしたの? 大丈夫だよ。ほら!」
夏帆は元気そうにガッツポーズをとった。
さっきのは夢だったの? みんなでカフェに集合して……そのあと夏帆が持ってたトランプで遊んで……お店を出ると車が……。
「はーるーかー。おーい。聞いてる? もうすぐ
違う。あれは夢なんかじゃない。たしかにカフェを出たあと車が夏帆に……。
「どうして……またカフェに……」
「どうしてって……二人が重大発表があるっていうから集まったんじゃない」
「え? そ、そうだったね」
「もう約束の三時過ぎてる! 何やってるのかしらあの二人」
三時? カフェの時計は午後三時十二分。
私はこの時計の針を既に一度確認している。
このあと二人が現れて、杏は大きなピンクの紙袋を抱えているはずだ。
――カランカラン
カフェの扉が開く音……やっぱり杏は大きなピンクの紙袋を抱えている。中西くんと二人だ。
「夏帆も遥も待たせてごめんね。買い物に時間かかっちゃった」
「なにその大きな袋! それって最近出来たショップのでしょ? いいなー。あそこの洋服可愛いの揃ってるよね」
このあと夏帆は、私を誘ってくる。
「遥、あたしたちも今度一緒に行こうよ!」
「そうだね……」
「今日、元気ないね? 何かあった?」
「え? なんでもないよ。ごめんね」
間違いない。どうしてかは分からないけれど、私は事故が起きる前に戻ってきている。
それなら……もしかしたら……夏帆を救えるかもしれない。
「杏の買い物に付き合わされて俺は腹が減って仕方ないよ」
「お昼食べたじゃない?」
「あんな小さなケーキじゃ体力もたないよ」
「何か頼む?」
「夏帆ちゃん優しい。夏帆ちゃんが彼女だったら良かったな」
「あっ! 浮気者!」
「冗談だよ! 冗談!」
どうしたらいいの? このまま同じ時間を過ごしてしまったら夏帆が……。
「ね。ファミレスに行かない? その方が色々頼めるし」
「えー! 買い物で疲れちゃったから移動するのやだよー」
「遥ちゃん大丈夫だよ。俺、ここのパスタ好物だし! 杏も疲れてるしさ」
「ここでいいよ、遥」
「そ、それならいいんだけど」
「気を遣ってくれてありがとう。遥ちゃん」
駄目だ、同じ流れだ。二人は席に腰をかけてしまった。
このあと暫くして中西くんの頼んだパスタが運ばれてくる。
「ところで重大発表ってなによ?」
「お! 夏帆ちゃん、早速聞いちゃう? 言っちゃおうかな?」
「勿体ぶらないでいいよ。はやくはやく」
ここで中西くんと杏は見つめあって言うんだ。
「私たち結婚するの」
「おめでとー! そうじゃないかと思ってたんだ。ね? 遥」
「う、うん。おめでとう」
「有り難う二人とも! 暫くは杏と共働きになると思うけどね」
「お待たせしました。パスタをご注文のお客様」
注文が来てしまった……このあと中西くんが食べ終わって夏帆の持ってきたトランプで遊ぶことになるんだ。
「ふぅー。美味しかった!」
「ねえ、そういえば、こんな物をもってるんだ」
「トランプ? 懐かしいね。夏帆ちゃんそれ買ったの?」
「うん。お店で見てたら懐かしくなって買っちゃった! 今から遊ばない?」
「いいね!」
「遥もいい?」
「うん」
このあとババ抜きが始まり私が負けるはず。それなら負けなければ……。
――時計の針は午後四時二十分。ここまで全て同じ。結果が変われば……。
「最後は、あたしと遥の一騎打ちね!」
お願い夏帆! ジョーカーをひいて!
――夏帆っ!!
「やったー! 遥の負けー!!」
「……」
「思ったより楽しかったな!」
「あっ! 私そろそろ帰らなくちゃ。中西くんどうする?」
「杏を送るよ」
「二人とも幸せそう。遥もそう思うでしょ?」
どうしたら……このままカフェを出てしまったら夏帆は……。
「遥?」
もうこれしか思いつかない……。
「遥? どうしたの? いきなりスマホなんて打ち出して。誰かに連絡?」
――ブーブーブー
「ん? メッセージ? ……遥? なんでスマホ?」
「どうしたの杏ちゃん?」
「……中西くん。これ……どういうことなの?」
――これしか方法を見つけることが私には出来なかった。夏帆が中西くんと杏ちゃんに黙って付き合っていたことを密告するしか……それしか……。
完
※この作品はprologueの予想外な結末ジャンルに公開したものです。
密告者 かねさわ巧 @kanesawa-t
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