終章 卒業式

最終話 地獄

「木下さん、仮釈放おめでとうございます。これから木下さんは社会復帰の為の道を選んで頂くか、彼ら彼女ら犯罪者の矯正カリキュラムを組んで頂く上級生として2度と犯罪を繰り返さないような“お泊まり会トラウマ“を作っていただく事も可能です。こちらは卒業制作と致しましてこれにて刑期の完全な終了ともできますがいかがなさいますか?」

「はい?」


 見上げると警官、そして何かカルテのような物を持った女性職員。自分がアリサではなく木下である事をゆっくりと思い出していく。自分は結婚詐欺の恨みで詐欺師とその嫁と子供、四人を殺害し刑の判決と執行を受けるのを待っていた筈だった。

 ガラス張りの広い部屋には等間隔に配置された拘束椅子に座る人々がずらりと、皆一様にヘッドギアを付け栄養は点滴とカテテーテルから流されているらしい。


「あの人達は?」

「貴女と同じ極刑の執行が行われている囚人達ですよ。死刑廃止の代わりに世界初導入させて頂きました。最高刑、仮想現実による地獄でございます。ありとあらゆる犯罪を見てその身に受け、考え悔い改めて頂き社会に復帰して頂きます。この地獄の刑期を終えた方の再犯率は極めて低く、今まで被害者遺族より加害者を守る法律と言われてきた事に一石を投じたと言えるでしょう」

「あぁ、そうなんですね」

「ところで仮釈放となった木下さんは“お泊まり会“を作られますか?」

「いいえ、2度とここに戻ってこないように誠実に日々を生きていきます」

「分かりました」


 それではさようなら、““聞き覚えのある声が聞こえた気がした。すぐにここから立ち去りたい。


 そんな木下が最後に見た者は犯罪者の名札に“樹理亞じゅりあ“と書かれた女性が刑を受けている姿だった。彼女がどんな犯罪でこの極刑を受け、どんな人なのか木下は知らないが、彼女が1日でも早く罪を償い社会復帰できる事を祈り、その施設を去った。



 刑期を終える者に対して生涯を刑務所で過ごす者が多い。時には記念日には一般人より美味しいご馳走を食べ、なんなら少しばかりの娯楽すらも存在する。


 日本という国は、加害者に優しく被害者に厳しい。

 だからこそ、人ではない者を裁く為の地獄が必要なのだ。


 グワングワンと音が鳴る。


「目を覚ましましたか? 小鳥、小鳥・チェリッシュ・


 あなたは死刑制度反対ですか? 地獄制度賛成ですか?

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お泊まり会〜縦笛を咥えた悪魔達〜 アヌビス兄さん @sesyato

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