第4話

 料理を堪能したところで僕と先輩は帰路を歩いていた。


「そろそろ答え合わせと行きましょうか」


 店を出てある程度歩いてきたところで綾先輩から話を切り出す。ここに来るまで話があまりなかったのは、考える時間を作っていたからなのだろう。

 でも、その時間はもう終わり。


「では、最初に最上くんから自分なりの答えを聞かせてください」


 さて、どう答えようか。

 僕が今思っていること、僕ができること。今日の話のどこかで湧き出てきた心情。

 一度、高速に今日の出来事を再生していく。

 出されたお題。数々の例え話。店の料理。そして、先輩の言葉。


「言遊部って僕が思っていた以上に壮大な思いがあって、設立されたモノなんだって、今日先輩に聞いて思いました。だから、その……まだ入りたての新米ですけど、この部活にもっと多くの人が入ってほしいって思ったりしています。なので、目的は『言遊部を盛り上げること』、目標は『とりあえず、同好会から部活にすること』、手段は……そうですね……『呼びかけ』とかですかね」


 っていう感じに言ってみるが、綾先輩の反応はどうだろうか。

 目を横に動かし、恐る恐る彼女の様子を確認してみる。

 綾先輩は呆然としながらこちらの方を覗いていた。


「とっても良いと思います。というよりもそう言ってもらえてとても嬉しい限りですね!」


 だが、すぐに表情を晴れ晴れしくし、こちらへ微笑んでくれる。若干、声の調子が上がっていた。


「気に入ってくれたなら良かったです」

「はい!」


 先輩は、心が躍っているらしく足取りが軽やかになっているように思える。

 とてもうれしそうで何よりだ。ここまでされたら、今後の僕の活躍に期待するしかなさそうだ。頑張るんだぞ、僕。


「それで、先輩の答えはどんなのですか?」

「私ですか」


 考えるそぶりを見せる。だが、すぐにまた話し始めた。


「では、私は最上くんが盛り上げてくれる言遊部の一人一人と仲良くしていきたいと思います。ですので、目的は『部員一人一人と仲良くすること』、目標は『今日は最上くんに私のことを知ってもらう』、手段は……『デート』、ということです」


 綾先輩は、にっこり笑ってこちらへと語りかけてくれた。

『デート』という言葉に胸の高鳴りを覚える。

 きっと用意していたのだろう。それを今までずっとためていたなんてずるい気がした。


「っていう形なんですけど、なんだか自分の口から言ってしまうと照れますね」


 ほおを赤く染めながらオロオロと視線をそらしていく。その様子は見ていてかわいらしかった。


「先輩は、やって後悔する派ですね」

「……そうかもしれませんね」


 僕にパンケーキを渡したときも、今こうして自分のことをしゃべるときもすべて言った後に恥ずかしがっている。その様子もまた可愛らしいというのがずるい気がした。並大抵の男子だったら今の言葉で全員落ちてしまっている。


「最上くんには、すごく感謝しているんですよ」

「そうなんですか」

「そうなんです。さっき、今日は私のことをしってもらうと言ったので、少しだけ話させて下さい。言遊部を作ったとき、私は後悔していました。言葉で遊びたいから作った部活だったけど、誰も入らないのならば、違う部活に入っておしゃべりをした方が良かったのかなって。二年目もこんな風に誰も入ってくれなかったらどうしようと考えていた時期もありました。でも、最上くんがこの部活に来てくれたおかげで私は救われたんです。こうして一緒に考えることができる仲間ができて今の私は幸せです。ですから、その……ありがとうございます」


 面と向かって先輩からそう言われるとなんだか照れる。それよりも楽ができるという理由で選んでしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 だから、これから少しでも先輩に楽しんでもらって償っていこう。

 そう強く思った。


「俺も、言遊部入って良かったです。先輩に出会うことができて良かったって思います」

「え……それは、すごくうれしいですね」


 きっと、綾先輩となら親しい関係になれる気がする。いや、なれたら良いなって思う。 ここまで強く自分の感情に正直な人はそうそういないから。


「では、私はこっちですので、今日はこの辺で終わりましょう」

「はい。お疲れ様でした」

「また、明日。楽しいお題を考えてきますね」

「期待しています」

「ふふっ。十分に期待していてください。それでは」


 向こうに歩いていく綾さんを眺めながら途方に暮れていた。

 空に光る夕焼けはこの世界を幻想に包み込んでいるような感じだった。

 そう思ってしまうくらい、今日のこの時間が楽しかったと思えたのだろう。


「学校での楽しみができた気がしたな」


 ひとしきりに笑っているのに気づく。すこし恥ずかしい気持ちにさせられた。

 綾先輩のやって後悔するのが写ったのかもしれない。

 気がつけば、綾先輩は消えてしまっていた。

 とりあえず、帰るとしよう。

 いつもよりも軽い足取りで僕は、帰路を歩いて行った。

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【短編】言遊部(ことあそぶ) 結城 刹那 @Saikyo-braster7

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