第2話
夕方頃の街中は多くの人であふれかえっていた。
寄り道をする生徒、買い物帰りの主婦、その他諸々。
人混みに紛れながら僕と綾先輩は歩いていた。
「それで、どこに行く予定なんですか?」
歩きはしているものの未だに目的地を聞かされていなかった。
いつもならすぐに伝えてくれるのだが、今回はかなりじらしてくる。そういうわけでしびれを切らした僕は尋ねてみることにした。
「今日はですね……新しくできたカフェに行きたいと思います」
もったいぶるから変なところに行くのではないかと思ったが、実に先輩らしい場所のチョイスだった。これなら、早く伝えてくれてもよかったのではないだろうか。
「どうしたんですか?」
どうやら僕の心情は表情に表れてしまっていたようだ。
「いえ、いつもより回答をもったいぶるので卑猥な場所に行くのかと」
「えっ! そ、そんなことしませんよ。もったいぶったのは、今日のお題を実際に感じてもらおうと思ったからです」
「『目的』地ですか」
「はい。目的を知っている私と目的を知らない最上くん。私は淡々と歩くことができますが、最上くんの場合は私に付いていくことしかできないので、どうしても足取りが悪くなります」
たしかに目的を知らない僕としては、急に右に曲がられたりしたら対処しきれない部分がある。足取りが悪くなるのも無理はないだろう。
「目的を持つか持たないかで変わってくるわけですね」
「実感してもらえて何よりです。因みにこの場合ですと、目的は『食べること』、目標は『カフェに行くこと』、手段は『徒歩』と言うことになりますね」
「こんな些細なところにも、目的、目標、手段があるわけですね」
「世の中はこの三つで溢れているんですよ。それに一つの事柄が細分化されることもあります」
「奥深い課題ですね」
「言葉自体に奥深さがありますからね……と言っている内に着きましたよ」
綾先輩は足を止めると斜め右方向にあるお店を指さす。
見ると行列のできているお店があった。この時間にもかかわらず行列というのが新設されたお店の証拠なのだろう。
「少し待つことになりますが大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ。時間は大いにありますから」
「ふふっ。頼もしいですね」
そういうわけでしばらくの間、僕たちは行列に並ぶことになった。
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