大輪の花


 しばらく身を隠したあと、追っ手に気をつけながらイーサンの屋敷に戻った。

 ナターシャの捜索に出ていたイーサンは、知らせを受け飛んで帰って来た。今回の件に責任を感じている彼は、ナターシャに頭を下げ続けた。


「私が不用心だっただけです。もう謝らないでくださいませ」

 彼は悪くない。ナターシャからも、謝罪と感謝を強く伝えた。


「大変な目にあわせてしまったことは残念で心苦しいですが、お二人が無事に心を通わせたようで、良かったです」


 イーサンは、手を繋いで帰ってきたナターシャとイライジャを見て察したらしい。優しく目を細めた。


「ナターシャ様、そしてイライジャ様。またぜひ、お越しください」

「イーサン様、色々とお世話になりました。また来ます」

 ナターシャは満開の花のような笑顔を残し、シュナイダー辺境伯邸をあとにした。



「ジーン様。お帰りなさい。長旅お疲れ様です」

「ただいま。愛しのアリシア。会いたかったよ」


 フルラ国から帰ってきたジーンは、小柄な妻をやさしく抱きしめた。


「きみと、赤ちゃんは元気?」

「ええ。お医者様は順調だって」

「そうか、それはよかった。早く会いたいな」

 ジーンは蕩けてしまいそうな顔でアリシアを見つめた。


「それはそうと、ジーン様。ちょうど先ほど、ナターシャ様から手紙が届きましたの」

「妹は今、シュナイダー領にいると伝令から聞いているけど」

「辺境伯邸はもう出られ、こちらに帰ってきているそうですよ。ただ、お土産をたくさん買うために、色々と寄り道をするそうです」

「それはいい。うるさい妹がいなくてせいせいするよ。……ところで、作戦はうまくいったのだろうか?」


 ジーンの質問にアリシアはにこりと笑みを浮かべた。


「ナターシャ様、この国で一番強いすてきな騎士を、未来の夫に決めたそうですよ」


 報告を受けたジーンは、にやりと笑った。


 ――やっとか。あいつの想い、報われてよかった。


「あの妹を業せる男はイライジャしかいない。助かった……。変な女性の趣味を持つ奴に感謝しよう」


 ジーンは心底ほっとした。


「もう、旦那様ったら! ナターシャ様はかわいいお方ですよ」

「君のかわいさには敵わないさ」

 ぷくっと頬を膨らませているかわいい嫁にジーンはキスをした。


「ナターシャの花嫁支度を進めよう。アリシア、いそがしくなるけど、無理はだめだよ?」

「はい。旦那様。でも少しはお手伝いさせてくださいね? ナターシャ様は私の大事な義妹ですから」

「イライジャがどんな顔で帰って来るのか楽しみだ。その前に、陛下とミーシャ様にご報告しよう」

「え……。それはさすがに少々気が早いのでは? お二人も陛下には直接、ご自分で報告なさりたいかと……」

「かまわないだろ。だって、僕があれこれ手を回したおかげだよ? 手柄を陛下にアピールしたい!」

 アリシアは「困った人ですね」と言いながらもやさしく笑う。


「だからごめんアリシア。帰ってきたばかりだけど、今から氷の宮殿に戻る」

「では、私もお伴いたします」

 アリシアは「だって、十日ぶりに会えたんですもの、ジーンさまの傍を一時もはなれたくないわ」と、今すぐ抱きしめたくなることを言った。

「君って人は、本当にかわいいんだから!」

 ジーンは気が済むまでアリシアにキスをした。


「旦那様、外が暗くなる前に行きましょう」

「そうだね」

 ジーンは愛しい嫁に、厚手の外套を着せた。防寒をしっかりしてから自分より小さな手を取る。屋敷の外は白銀の世界だ。馬車までの数メートルを滑って転ばないように慎重にゆっくりと進む。


「ジーン様、思いやりを持ってやさしく注がれた愛は心の奥底で育ち、やがて大輪の花を咲かせる。そう思いませんか?」


「君に同意見だよ、アリシア。僕たちも僕たちらしい大輪の花を咲かせよう」


 ジーンは愛しいアリシアの手をぎゅっと握った。

                                          FIN.‧₊ *。 *



+―** +―** +―** +―** +―** +―**


 更新が停滞していたにもか変わらず、最後までお読みいただき、本当に、ありがとうございました。心より感謝しております。

 これからも執筆、頑張って参ります!


2023/05/30 碧空宇未より

゚・*.❆Thank you.❆.*・゚




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炎の魔女と氷の皇帝⑵*風の国編。氷の姫と炎の皇子*【仮】 碧空宇未(あおぞらうみ) @k_akasato

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