落ち着きがない奴
う、げふんさん! か、げふんさん! 俺に力を分けてくれえええええ! え? 納期がキツキツだから絶対嫌だ? そこをなんとかお願いできませんかね? ほら、爺ちゃんはお二人に無理難題を押し付けたみたいですけど、俺っちは清く正しい青少年ですので、お二人にブラック業務を押し付けるなんてそんなことはしませんよ。
それにお二人の作品が世界を超えてアトランティア世界に披露された日には、日本や地球どころか世界を超えた芸術作品として世に轟きますよ。いやあ、きっとこの世界でも絶賛されるような凄いのができるんだろうなあ。そしてゆくゆくは第一号の国宝に。え? 話を聞かせろ?
やったぜ。いえなんでもありません独り言です。
じゃあ説明させてもらいますね。お隣に住んでるロムナさん家の三姉妹さんが、木っ端の悪神に襲われた件は近年じゃ前代未聞と言ってもいいんですよね。っていうのも神話の時代が終わっている現代、基本的に神様連中はアトランティア物質世界ではなくアトランティア霊的世界の住人ですから、滅多なことじゃこっちに来れないんですよ。もし準備もせず無理矢理来た場合、下手をすればそれだけで消滅しかねないリスクを背負い込んでます。
実際木っ端冥府神も、俺が地獄送りにしなくても自然消滅してた可能性がありますね。
ただ昔はあの手この手で悪神共がこっちの世界に来てたようで、マナーテル魔道学園が連中に襲撃されたのも一度や二度じゃないらしいです。だからきちんとした防備が張り巡らされてますし、古代から悪神に狙われた奴が逃げ込んでくる駆け込み寺としても機能してるみたいで、現代でもそんな奴がちらほらと学園内にいるとかいないとか。
でも今回の木っ端冥府神はどうも余程頭にきてたらしく、自分が消えてもいいからロムナさん家の三姉妹をぶっ殺すために現れたっぽいんですよ。ちょっとこれは現代どころか古代でも完全に想定外な事態で、まさか神話の戦いを折角生き延びた神格が、自爆特攻してくるのはアトランティア世界の常識の範囲外だったんです。
だから事件後に駆け付けた……誰だっけ……そう、オークリー理事長だ。その理事長が対神格防御を底上げするために理論を一から練り上げてるんですけど、ちょっと時間が掛かりそうだからこっちでも手を打とうと思ったんですよ。
それでここから本題なんですけど、マナーテル魔道学園とロムナさん家の実家の対神格防御は、爺ちゃんと婆ちゃんが行った要塞化計画を参考にします。幸いマナーテルは四角い城郭都市でもあるのため楽なんですよね。そこで世のため人のため、う、げふん。さんとか、げふん。さんに渾身の作品を。
え? みなまで言うな? そこまで言うなら仕方ない?
ありがとうございます! それじゃあ早速う、げふん。さんと、か、げふんさんを百倍強化するのでお願いしますね! では!
ふう、交渉成立。邪神流お仕事依頼術が完璧に決まった。
後はマナーテルの東西南北に担当者をそれぞれ配置しないとなあ。北から侵入しようとするやつはご愁傷さまと言っておこう。
ふっふっふっふ。目指せマナーテル平安京化計画! そこらの神格より厄介だった魑魅魍魎共の最盛期と言って過言ではない時代に都を守り抜いた、陰陽寮最盛期の守護結界をここに再現するのだ!
それでも平安京に侵入してくる奴は侵入してたみたいだけど。やっぱやべえわあの時代。婆ちゃんですらまあまあやると評価してた連中がいたのに、陰陽師vs魑魅魍魎の平安京大戦が勃発してたとかやーばいでしょ。
さて……現実逃避はこのくらいにしておくか。お隣さんに説明しないと……。
◆
「えー。本日はお日柄もよく……」
譲治君の小手調べ。効果はないようだ。
やべえよやべえよ。木っ端冥府神の騒動から数日。事情を説明するため男女分けの結界に隔たれているけど、話すだけなら特に問題ない寮の庭でクロエ殿、ルーナ殿、アメリア投手にガン見されてるよ。
「先日はありがとうございました」
「感謝しております」
「見ず知らずの私達のためにありがとうございました」
またお礼を言われた。騒動の当日からずっと三姉妹にお礼を言われてるから、もう気にしなくていいと思うんだけど、この人ら律儀すぎるんだよなあ。しかもロムナ王家から俺に使者がやってくる予定とかなんとか……勘弁してくれませんかね?
「えーっと、それでですね。まあ、前にうっかり言った通り血の八分の一が神といいますか……ひい爺ちゃんが悪神とか善神とかいう分類ではなく、アトランティアとは違う別次元に存在する神でして、それもあって色々できるんですよ」
嘘は言ってない。嘘は。
ひい爺ちゃん本人は、やんちゃな神と敵対していたから俺は邪神なのさ。キリッ。とか馬鹿なこと言ってたが、自分でも起源と年齢を把握していないガバガバぶりなせいで、下手すりゃ全次元で最古の存在である可能性があって……そもそもあのスケール……神……と言えるのか?
これ以上は止めておこう。ひい爺ちゃんに一番近い存在である爺ちゃんですら色々と匙投げてるんだから、俺が深く考えるとマジで正気度削られる。
「あと、見ず知らずとは言いますけどこれから学友になるんですし、なにより皆さんは善き人として生きようとされてるんですから、冥府の底だろうと助っ人として参上する所存ですとも」
はて。なにかロムナさん達の目力が強まったような気もしなくもない。なんてな。俺になにを言いたいか分かるとも。
「皆さん人間ですよ。自分が保証します。人間の血があるから人ではなく、人として生きようとするから人間なんです。必要以上に難しく考えなくていいと思いますよ。ごほん。先祖が悪神だから自分は悪神だと思うならそれでいいじゃない。その逆もしかり。それでも自分は人間だと思うならきっと人間なんだ。きっとね」
そして俺もまた自分を人間だと思っているから人間である。そんな程度のふわっとした感じでちょうどいいのさ。難しく考えると堂々巡りに陥るし。
「クロエさんは人間ですか?」
「えっと、はい」
「ルーナさんは人間ですか?」
「は、はい」
「アメリアさんは人間ですか?」
「そう、だと思います」
「じゃあ人間です。証明完了」
我、人であると思うがゆえに人である。彼女達も人であると自認しているなら人なのだ。外骨格の姿になれるのは個性……。
「うっかりお肌を見ちゃってすいませんでしたあああああ!」
外骨格となったロムナさん達のお肌を見てしまったことを思い出し、九十度直角謝罪!
煮るなり焼くなり、チェストするなりお好きにどうぞでごわす!
地球ファンタジーを食らえファンタジー!~日本かぶれが行く魔道学園生活~ 福朗 @fukuiti
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