妹がぐうの音も出ないほどやらかしたら、出世した件。

肥前ロンズ

うちの妹天然なのか策士なのか

「で、弁明はあるか?」


 ハートフィリア家当主であり、若くして当主になった兄オスカルは椅子に座ったまま言った。

「ありますわ」

 妹ソフィアは、堂々と胸を張って言う。ほう、とオスカルは低い声で言った。

「ではソフィア、お前が自ら行ったことを、もう一度述べてみよ」




「ジョセフ様(ソフィアの婚約者)に我が家のワンコたちをけしかけましたわ」

「あ、っほ―――――!!」




 オスカルは全力で叫んだ。椅子を吹き飛ばすほど勢い置く立ち上がる。


「おま、おまえ! ジョセフ殿は犬嫌いだって知ってるだろうが! あれだけうちのワンコたちは近づかせるなって言ったのに! しかもうちの主催するお茶会で!!」

「お待ち下さいお兄様。これには深い理由があるのです」

「……深い理由?」

 オスカルは一旦冷静になり、座りなおす。

 ええ、とソフィアは勿体ぶったように言う。


「これには山よりも深く、海よりも高い理由がございますの」

「地盤沈下起きてるじゃん」


 オスカルはうっかり素が出た。

 ごほん、と咳払いして、オスカルは言う。


「いいか。我が家の爵位は子爵。そしてジョセフ殿は伯爵だ。うちは代々、ジョセフ殿の家の補佐をしてきた」

 言外に、自分たちより高貴な人なのはわかっているな? とオスカルは念押しする。


「うちのワンコは賢いから、噛みつく等はせずじゃれついたり吠えたりする程度だったが、犬嫌いの人にとっては、相当怖かっただろう。今回の件は婚約破棄どころか、精神的に苦痛を与えたとして、過失傷害罪として我が家の爵位剥奪も考えられる。……それなりの理由があるんだろうな?」

 マジで我が家のピンチなんだけど、と言外に含ませるオスカルの言葉に、「勿論ですわ」とソフィアが答える。

「よし。じゃあ改めて聞こう。……なぜこんなことをした?」

「…………それは、お兄様。



 これには海よりも高く、山よりも深い理由が」

「ループしてるじゃねえか!!」


 オスカル、再び叫ぶ。


「後それ言うなら『山よりも高く海よりも深い』だろうが! お前大して深い理由ねぇんだろ実は! 『うちのワンコのかわいさで犬嫌いをなおしてあげる〜』ぐらいのノリでいたんだろ! せめて言い訳用意しとけよ!!」

「そんな。この目が信用なりませんの!?」

「あー、そう言って最後のいちご食べてたのは覚えてるわー!」

 過去の食べ物の恨みから、兄妹喧嘩が勃発しそうになったその時。


「失礼します」


 国家憲兵のシモンが、オスカルの執政室に入る。


 え、執事が俺たちに声をかける前に憲兵が来たってことは逮捕? さっそく逮捕されるの俺? と戸惑うオスカルに対し、ソフィアは朗らかに挨拶した。


「あ、シモン様。こんにちは」

「こんにちは、ソフィア嬢。いやあ、大手柄でしたよ。あの伯爵、麻薬に手を染めていました」


「…………は?」



 え、憲兵と妹が仲良く喋ってるんだけど。え、っていうかジョセフ殿が麻薬? マヤク???


「ど……どゆこと?」

「実はあのワンコの中に、麻薬探知犬もいたのです。お兄様」

 こっそりソフィアはオスカルに耳打ちする。


 え、マジで? うちのワンコ全部覚えてたつもりなんだけど……いや、パニックになっていたから気づかなかったのか、とオスカルは理解する。


「いやあ、あの伯爵は犬嫌いで有名でしたから、どうやって近づかせられるか悩んでいたところ、ソフィア嬢が買って出てくれたんですよ」

「我が家のワンコの数はそれはもう多いですからね。どうも我が家のお茶会を利用して麻薬を流出させようとしていたようですの。犯行が明るみになっても、我が家に濡れ衣を着せることもできますから」

「しかし現場を取り押さえたことで、伯爵は言い訳すらできなくなりましたよ。これもソフィア嬢づてに提案してくださった子爵のおかげです」


 あ……はい。よくわかりませんが、はい。



 翌日。

 このオスカルに新たな爵位(「伯爵」)が与えられた。

 妹がぐうの音も出ないほどやらかしたら、出世した件。

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妹がぐうの音も出ないほどやらかしたら、出世した件。 肥前ロンズ @misora2222

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