我もっぱら知らず
芦原瑞祥
有間皇子
「言い訳を聞こうか、有間」
皇太子・
縛られた上に地面に跪かされた
「有間、謀反だなんて嘘でしょう? 我らが紀の湯へ行幸している間に、都を征しようとしたなど……やさしいあなたがそんなことをするはずないわ」
伯母である
(いいえ、伯母上。私は謀反を起こしたのです。けれどもそれは、天皇である貴女への反逆ではなく、宿敵・中大兄を廃するため)
有間は先の天皇(孝德)の一人息子だった。天皇といっても、実権は皇太子である中大兄が握っていた。それが明らかになったのは、
上皇をはじめとした皇族、大臣、百官の人々すべてが中大兄に付き従って飛鳥へ遷った。しかも、
難波宮には天皇だけが残された。天皇は失意のあまり病気になり、そのまま崩御されてしまった。
(お前や皇后を恨み、血を吐いて倒れた父の姿を、私は決して忘れないぞ、中大兄)
復讐の機会を窺う有間皇子にとって、天皇の紀の湯行幸はまさに好機だった。
急いで計画を立てる有間の前に、都の留守を守る役の
その夜、蘇我赤兄が邸を取り囲み、謀反の罪で有間皇子を捕らえた。赤兄は、中大兄からの密命を受け、有間をそそのかして謀反を起こすよう仕向けたのだった。
(もともと、中大兄の仕組んだことだったのだ。言い訳など何の意味があろう)
有間は中大兄を睨み、よく通る声で言った。
「天と赤兄と知る。我もっぱら知らず」
弁明しない有間皇子に天皇も救いの手を差し出すことができず、彼の有罪が決まった。情状酌量はなく、死罪であった。
二日後、有間皇子は
皇族の者の体を傷つけるわけにはいかないから、木にかけられた白布で自ら首を吊るよう、有間は強要された。
最後まで付き従ってくれた側近たちが泣いている。彼らは皆、有間の死後に斬られることになる。ずっと仕えてくれた者たちを守れないふがいなさに、有間は胸が潰れる思いだった。憤死した父もきっと、こんな気持ちだったのだろう。
台に乗り、有間は輪状になった布に首を通した。
(ああ、私にもっと力があったなら。せめて赤兄の罠に気づけるだけの冷静さと賢明さがあれば)
すべてはもう遅い。せめて中大兄に関わる者の手にはかからぬと、有間は自らの足で踏み台を蹴り倒した。
首に衝撃が走り、一瞬で目の前が真っ暗になる。
気がつくと、有間は白い空間にいた。
『力が、欲しいか』
どこからともなく声が響く。有間は虚空に向かって叫んだ。
「ああ、欲しい! 自分の周りの者たちを守れるように。理不尽な権力に屈しないために。力が、欲しいとも!」
有間の体がまばゆい光に包まれ始める。そしてまた声が聞こえた。
『よかろう、受け取るがいい。これよりアリマと名乗り、聖剣を操る騎士となれ。そして腐敗した政治家を取り除き、圧政に苦しむ民を救え』
*******
「という感じのオープニングで、異世界ファンタジーに突入する話を考えた。これの女性版を『賢いヒロイン中編コンテスト』に出そうと考えているんだが、どう思う?」
私の質問に、相方は難しい顔をした。
「めっさ微妙やな……。なんでわざわざ古代史とリンクさせるん? 歴史警察が来るよ。この時代に○○はない、言葉遣いが現代で興ざめ、もっと勉強してから出直してこいボケカス、とか言われるんやで」
「古代史はただの趣味だ。でも、歴史警察は怖いな。かといって完璧に書けるよう勉強ばっかりしてたら、いつまで経っても書けないし」
「それ以前に、KACのお題がこんなグダグダなメタでええんか?」
「いいわけない」
おあとがよろしいようで。
我もっぱら知らず 芦原瑞祥 @zuishou
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