同人誌『稲麻竹葦』第三号から、「常世辺に住むべきものを」を転載しました。
お星様やハートをくださった皆さま、ありがとうございます! とても嬉しく励みになります。
・常世辺に住むべきものを
https://kakuyomu.jp/works/16818093081427779532万葉集九巻に「水江の浦の島子を詠む一首」という、浦島太郎伝説を詠んだ長歌があります。浦島太郎伝説は雄略紀や風土記にも見えますが、これは住吉での話とされ、亀が登場しません。作者の高橋虫麻呂の創作が入っているようです。
高橋虫麻呂は藤原宇合に庇護されていた歌人で、彼の歌集が宇合の子孫経由で大伴家持に渡り、万葉集に掲載されたとみられます。
恋愛情緒を漂わせながら自分の恋愛歌はなく、その土地の珍しい話を取り上げて歌にするロマンティシスト。犬養孝氏は「虫麻呂一番のねらいは、これを一言で言うと『美』にあると思う」と述べています。
とても美しく郷愁のある景色を撮るのに、本人はファインダーを覗きながらそこに混ざれず指をくわえて見ている、個人的にはそんなイメージのある歌人です。現実の切り取り方も独特で、「ここ」にいながらいつも「異邦人」のような感覚が、彼の歌からは感じ取れます。
そんな虫麻呂が、海神の娘に常世へと招かれたら。と想像しながら書いた短編です。
同時に、乙姫側から見た浦島太郎伝説は、好きな男が離れていく悲恋であるなあと思いながら書きました。
よろしくお願いいたします!