嵐の通過と因果の法則

第1話

この世界は、誰かの都合でできている。


「で?何でこういう結果になったんだ?」

書類の束を机に、以前なら打ち付けていたのだろうけれど、上司は、その手を途中で止めて、極めてやんわりと机に置いた。

語気も抑えているのが分かる。

彼は結果の理由を聞いているわけではない。

単に、自分の思った通りの成果が出せなかったことに苛立っているだけなのだ。

どんな正当な理由を並べ立てたとて、帰ってくる、あるいは、彼の心中に沸き立つものは一つ。


「言い訳するな」


理由を聞いておいて理由を言うと怒られる、というのはここに起因するのだろう。


私はこういうことが起こると、つい、自分の失態について言い訳してしまう。

そのことが良い結果を生むことは少なかった。

自分自身が、何かしらの迷惑をこうむっても、相手になんらかの事情があるなら「致し方ない」と思える性格であることも災いした。

事情が分かった方が、私は相手との人間関係を柔らかで円滑なものにすることができたし、心にひっかかりももたなかった。

けれど、世の中の大半が、理由を求めていない、あるいは、どんな理由があったとて、迷惑をかけられたことは許しがたい。

もっと言えば、その理由を話すことで自分を許せと主張している、と、とらえる。


例えばそれが、何ら本人のミスでもなく、たまたま起きた偶発的な出来事で断念せざるを得なくなったようなことであっても、だ。


それは、台風によって運転見合わせとなったときに、下っ端の駅員をどなりつける行為に似ている。


「もういい。次からは結果を出せよ」


上司にそう言われ、私は小さくすみませんでした、とだけ言って頭を下げた。

残念だけれど、それが今の私の最善策だ。


ただ、嵐が過ぎるのを待つ。


それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。

行動がどうというより、何をしても無駄と思う思考回路。


その先の因果は神のみぞ知る、といったところ。




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嵐の通過と因果の法則 @reimitsuki

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