しおりと妖精との再会

大田康湖

しおりと妖精との再会

 小学四年生のしおりと菜々ななは、駅前の本屋に来ていた。

「しおりは何買うか決めてるの?」

菜々の問いにしおりは児童書コーナーを見ながら答える。

「今日発売の『探偵に挑戦! 5分で答えるクイズ』よ。読んだら菜々ちゃんにも貸してあげるね」

「サンキュー。そしたら瑛人えいとにクイズ出してあげようっと」

 児童書コーナーに入った二人は、早速お目当ての本が平積みされている棚へ近づいた。本を取ろうとしたその時、しおりの頭上から声がする。

「お嬢さん、お嬢さん」

 しおりが見上げると、羽の生えた10センチくらいの人間が二人、「児童書コーナー」の看板に腰掛けている。一人は緑色のもじゃもじゃの髪の毛にピンクの肌、白いエプロン姿、もう一人は灰色のもじゃもじゃの髪の毛に淡褐色の肌、緑のエプロン姿だ。

「こんなに早く会えるとはね」

 白エプロンの妖精が驚いたように言った。

「先日息子を助けてくださった方ですか。ご迷惑をおかけしました」

 緑エプロンの妖精が丁寧に礼を述べる。

「しおり、上に何かあるの」

 菜々に呼びかけられ、とっさにしおりはいいわけした。

「ちょっと風が吹いたかな、って」

「大丈夫だよ。俺たちが見えるのは『妖精の豆本』を持ってる人間だけさ」

白エプロンの妖精が言った。


「じゃ私、コミックコーナーに行ってくる」

 菜々が立ち去った後、しおりは本を抱えたまま小声で妖精たちに呼びかけた。

「ここが引っ越し先なの?」

「ああ。これからお得意さんに案内状を配らないと」

 白エプロンの妖精がエプロンのポケットを叩く。

「実は、私のミミちゃんが豆本を気に入ったんで、新しい本が欲しいの。どうすれば買えるの?」

 しおりの問いに答えたのは緑エプロンの妖精だ。

「ウサギのぬいぐるみのミミちゃんですね。分かりました。しおりさんへの案内状を渡しておきますので、夜一緒に寝ていれば、夢の中で本屋に行けますよ」

「ありがとう。でも、お金がいるんでしょ」

「お金の代わりに、お嬢さんの持っている本を貸してくれないか。新しい豆本の種にするんだ」

 白エプロンの妖精の答えにしおりはうなずいた。

「それじゃ、妖精さんの好きそうな本、探してみるね。ええと、あなたたちのお名前は」

「俺はブック・マーク」

「私はブック・カバー。ではこの辺で」

 二人は看板をブランコのように揺らすと消えた。しおりはそっとつぶやく。

「ありがとう、妖精さん」


 そこにコミックを買った菜々が戻ってきた。揺れる看板を見上げたままのしおりに尋ねる。

「まだ風が気になるの?」

 しおりはいいわけした。

「気のせいだったみたい」

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