異色の異世界転生で描く、自作を評価されない痛み

文学好きの両親のもとに生まれ、あまたの文学作品を叩き込まれた“ツシマシュウジ”。

シュウジはある日、異世界転生をし、チート能力であっけなく魔王を倒す。
その後、シュウジが選んだ職業は小説家だった。
元いた世界の文学作品を自作として発表し始めると、「革新的」と評価され、一躍人気作家に。
やましさは当然あり、また、やはり自作で評価されたいと願うシュウジ。
しかし、シュウジが自身で書いた小説は、ことごとく酷評される。
作家としての金と名誉は手に入れたが、心は満たされない。
次第に堕落していくシュウジは、あるきっかけから太宰治の小説だけを盗作するようになり、さらに運命を狂わせていく……。

全編からただようのは、自作を評価されないむなしさ。
物書きなら誰もが共感できる心情だけに、文学に呪われたとしか言いようがない青年の、転落劇の哀しさが際立つ。
ラストの「なぜ異世界転生をしてまで作家を選んだのだろう」という自問自答は、物を書く人間の業そのもの。

わたしはどうしても考えてしまう。
「もしも」があるとして。
もう一度記憶を持ったまま異世界転生ができたら、彼は作家「以外」を選ぶだろうか。
答えはたぶん、「No」なのではないか。

「書く」者が逃れられない欲望と願望。
その業の深さがひんやりとした感触を残す作品だ。

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