KAC20237🐷家族でいいわけはいらない

オカン🐷

いいわけはいらない

「プギーはまだ寝とるんか?」

 キッチンでパパはトマトジュースを飲みながらママに訊いた。

「うん、昨日は相当ショックを受けたみたいやね」

 すると2階の扉が開き、階段を下りて来る足音がした。

「パパ、何か用事?」

「うん、あれや、教会にな」 

「ああ、風薬とか持って行くのやろ。ぼくも手伝うわ」


「空がずっと曇っとるね」

 荷物を持っているので低空飛行するプギーが、隣で並走するパパに言った。

「ああ、焼け跡がまだ燻っているのやろ。おおっと、カバンを落とすところやった」

「パパ、気を付けてや」

「まだ、この躰に馴れてへんのや」

「あっ、神父さんが出迎えてくれてるやん」


 神父さんに招き入れられて教会入った途端呼びかけられた。

「プギー」

 薄暗い室内で目を凝らすと、以前、住んでいた家の近所の友だちの顔が見えた。

「あっ、ピギー」

「おまえ、格好ええなあ。飛んで来るとこ窓から見てたで」

「ピギー、無事やったんかあ。よかったあ」

「ほら、ピクもおるぞ」

 ピクは頬をピンク色に染め、目をキラキラと輝かせ、胸の前で手を合わせていた。

「さっきまで格好ええって、キャー、キャー、騒いでいたのにピクどないした」

 ぼくの憧れの女の子に、ぼくは何も言えなかった。

 種の存続のための使命とか、新しく作るコロニー計画とか、ピギーの熱く語る声が素通りしていった。ただ、ピクから目を離すことが出来なかった。

「おとなになったら結婚しよう」って言ったんやった。でも、儚い夢になってもうた。


 家に帰るとパパが言いにくそうに口を開いた。

「いや、あのな、友だちが豚の姿で生き延びていたことな」

「パパ、家族同士でいいわけはいらんのやないかな。ぼく、この姿になって後悔してへんし、研究所の所長一家のぼくたちががターゲットになっているのわかってた。パパがぼくたちが生き延びるのにこれが最善の方法やと考えてくれたの知っているよ。ありがとう、パパ」


   

  了



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20237🐷家族でいいわけはいらない オカン🐷 @magarikado

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ