盗賊団のいいわけ探し【KAC2023 7回目】

ほのなえ

言い訳を探し出せ!

「後々言い訳のできる強奪・襲撃・狼藉をすること」

 ……それがこのダガー盗賊団のモットーである。



 それを盗賊団のおかしらである俺さま……ダガーが、盗賊団の新入りに伝えると、大抵は新入りから何かしら口ごたえされるので……俺は毎回、それにいちいち答えてやっている。


「おかしらぁ。でも言い訳なんて簡単に思いつかないでさぁ」

「だから前もって町や村に潜入しておいて、あら探しすんだよ。で、何か気に入らねぇところを一つでも見つけたら、それを後々言い訳にできるから、嬉々としてその町や村を襲えるって寸法よ!」

「お頭ぁ。でも襲撃していいなんて認められるような言い訳なんてあるんですかい?」

「別に周りに認められなくたっていいんだよ。俺たちなりの主義主張があって襲うに至った……そうやって何かしら言い訳ができるだけで、欲望の赴くままに村を襲ってるだけの盗賊団なんかよりは、数段カッコよく見えるだろ?」


 面倒でもそうやって答えを用意してやると、やがて新入りは皆納得し、キラキラした目で尊敬の念を込めて俺のことを見つめ、口をそろえて言う。


「さっすがおかしら! あったまいいや!」



 そんなこんなで今回も盗賊団に新入りを迎えたその日、俺は盗賊団のメンバーを集めて、くるくると丸めた地図を開き、地図の一点を指さす。


「次の標的はこの『メグミむら』だ。一見ちっぽけな村だが、噂では……この村は神の恩恵を受けていて、作物が年中実り、そこに住みさえすれば豊かな暮らしが保証されるそうだ」

「そこを奪えば、俺たちも年中豊かな生活ができるってワケですね、おかしらぁ!」

「おうともよ。で、今回も盗賊団のモットーに従い、村を襲う前に潜入して、村を襲撃した後に使える『言い訳』を先に探しておく」

「ふへぇ。面倒なおきてっすねぇ」

 子分の中の一人が思わずぼやくと、俺は即座にそれを一蹴いっしゅうする。

「それができねぇならここにいる必要はない。直ちにここから去り、他の盗賊団に入れてもらうんだな」

「ふぐぅ」

 口ごたえする子分を一人黙らせたところで、俺は皆を見渡し、大声で言う。

「潜入は俺を含めたいつもの少数精鋭で行く。明日は乱暴狼藉は封印する代わりに、思う存分村の粗探ししてきてやるから、残りのメンバーはここで待機だ。村を襲えるって吉報を待ちな!」

「「「おお~っ!」」」



 そうして次の日、俺は少人数の子分を引き連れ、いつもの一目見て盗賊とわかる格好で、何食わぬ顔で村に入る。

(村に潜入するってんなら盗賊だとバレねぇように変装すべきだって考えるのは素人トーシロだ。盗賊のような風貌のまま盗賊じゃないていで村に入ることで、村の奴らに何かしらいちゃもんつけられるのが狙いなんだよ。そうすることで、見た目で判断するようなやからが許せなかったなんて言って、村を襲った後で言い訳ができるからな)

 事実、今までは大抵そんな展開になり、一方的に悪者扱いされたという言い訳ができることになったのだったが……。


 今回はすっかり目論見もくろみがはずれ、メグミ村に入るや否や、にこにこと愛想のよい住人たちに歓迎されることになってしまった。

「おや、旅のお方ですかな? これはこれは、歴戦の強者つわもののような雰囲気でいらっしゃる」

「ふへ?」

 そんなことを言われると思わなかった俺は、間抜けな声を出してしまう。

「私は村長むらおさをしている者です。旅の疲れもあるでしょうし、ひとまず家でゆっくり食事でもご馳走させてください」

 そう言った老人が自分の家へ案内する様子を、俺たちは口をあんぐり開けながら眺めている。

「なんだぁ? 見ず知らずの者……それもならず者みてぇな見た目の俺らに、この歓迎っぷりはありえねぇよな」

「どうせ、何か裏があんだろ」

「てことは……食事に睡眠薬か毒でも盛って、隙を見て殺ろうって寸法かぁ? にこにこしたツラ見せてるクセに、なかなか腹黒い奴らだぜ」

 そんなことをひそひそと話し合う中で、俺は一つの結論を出す。

「食事が出されても、まずは俺たちよりも先に住人に食べさせるんだ。それで手を付けないようなら、毒か何か盛ってんだな、ってことが判明して、後々村を襲った言い訳ができるからな」

「さっすがおかしら、今日も冴えてやすねぇ!」

「まあ、な」



 そうして俺たちは、村で一番立派な村長むらおさの家に連れていかれ、豪勢なご馳走が俺たちの目の前にずらりと並べられる。

 ほかほかと湯気のたつ、食欲そそる料理のいい匂いに、俺の口の中はよだれで溢れかえる。

「ささ、どうぞ召し上がれ」

 嬉々としてそう言う村長むらおさに、そうはいくかよと俺はすぐさま口を出す。

生憎あいにくだが、俺たちはいろいろワケあって……簡単には人を信じないようにしているんでね。毒見もなしに食事にありつくわけにゃいかねぇんだよな」

 そんな俺の言葉に村長むらおさは、不満げな顔一つすることなく言ってのける。

「おお。それはごもっともですな。でしたらわたくしどもが先に食しましょう。では、失礼して……」

 そうして全ての大皿から少しずつ料理が取り分けられ、村長むらおさの家族の元に配られる。

「では、お先にいただきます。食べても問題ないと判断されましたら、あなた方も遠慮なく取って下さいな」

 そう言って、村長の家族たちは皆、美味しそうに食事にありつく。


「いっただっきまーす!」

「ああ~このトントン豚の煮込み、最高だよ、母さん」

「この黄金こがね芋のオーブン焼きも、絶品だねぇ!」

首長鶏くびながどりのハーブ焼きも美味しい~っ」

「今日も、神からたまわりし大地の恵みに感謝せんとな」


 村長むらおさの大家族が皆美味しそうに、ものすごい勢いで食事を頬張るのを見て、ついに子分どもがしびれを切らす。

「ああっおかしら! もう俺我慢できねぇ!」

「この勢いじゃ、こいつらにおおかた食われちまうっすよ!」

「見た感じ食っても問題ねぇようですし、お頭には悪いですが……お先に失礼しやす!」

「ああっコラ! てめぇら!」

 俺が止めようとするのもお構いなしに、子分どもが一斉に食事にありつく。


「う、美味ぇ~~~っ!」

「こんな美味ぇもん、初めて食ったぜ!」

「おかしら、たとえ死んじまったとしても、ここの料理だけは食っといた方がいいっすよ!」


(なんだよ、お前らはいつ死んでも構わねぇんだろうが、俺は盗賊団を率いる立場で、ダガー盗賊団を守るためにも簡単に死ぬわけには……)

 俺はそう思い、万が一のために食事に手をつけないでいるが、料理がどんどんなくなっていくのを見かねて……ついに観念し、料理に手を伸ばす。

(ちくしょう、もう知らねぇからな!) 



「はぁ~~食った食った」

 結局、全員が料理を堪能したものの……今のところ、毒で苦しむことも睡眠薬で過度の眠気に襲われることもなく、皆満ち足りた気分で腹をさすっていた。

「なーんにも起こらなかったっすねぇ」

「心配することなかったじゃねぇですか。いやぁ、良かった良かった」

 俺も夢見心地のまま子分の言葉にうんうんと頷きそうになるも、ふと我に返り、慌てて首を横に振る。

「いや、良かねぇよ!! この村を襲った後に使えそうな言い訳が、まだ見つかってねぇじゃねーか!」

「えー別に襲わなくていいんじゃないっすか? ずいぶんいい村だし」

 まさかの子分の言葉に、俺は思わず目を白黒とさせる。

「いやいやいやいや、でも襲わねぇと……この村を俺たちのモンにできねぇぞ!?」

「別に俺たちで独占しなくたって、村の住人になれば豊かな暮らしが保証されるんでしょ? さっきみたいなご飯が、毎食食べれるんすよ?」

 甘っちょろいことを言う子分の言葉に、俺はいら立ちを隠せずに言う。

「いやいやいやいや、俺らみてぇなならず者、村の住人として受け入れてくれるワケが……」


「おほっ。もしや、この村を気に入って下さったのですかな? この村の住人になって頂けるというのでしたら、我らは大歓迎ですぞ?」

 いつの間にやら後ろに村長むらおさが立っていて、俺たちの話を聞いていた様子だったことに気づいた俺はぎょっとする。

「え、今の話、聞いて…………ってか、大歓迎って……」

「はい。この村には大人の男が少なくて、若い娘たちは皆婿が欲しくてもとれない現状なので……。もし皆さんに、この村の住人として来て頂けるのでしたら、こんなに嬉しいことはありませんぞ!」

「で、でも俺たち、他にも仲間がいて……男ばっかりざっと15人くらい……」

「おおっそれは素晴らしい! 村の年頃の娘もちょうどそれくらいおります。皆婿が見つかると言って喜びますな!」

(いや、この爺さんの口車に乗せられては駄目だ! 俺たちは盗賊団! 今日は村を襲ってから後々言えるような言い訳を……っ)


 俺はなんとかこの村のあら探しをしようと周囲を見渡すが……その時、ふと、村長むらおさの家の孫娘……柱の影からこちらを見るうら若き女性と目が合う。その女性は俺と目が合うと顔を真っ赤にして、慌てて柱の向こうにさっと隠れる。

(……言い訳……を…………)

 俺はそう思いつつ、今の女性が見せた愛らしい仕草で、頭の中が一杯になってしまった。


 その様子を見ていた子分の一人が、諦めたようにため息をつく。

「あーあ、言い訳大好きのおかしらも、あのになんだか骨抜きにされちまったし……もうこれ以上は無理っすね」

「こんないい村であら探ししても、何も見つからねぇや」

「神の恩恵を受けた村って……こういうとこでも神様に守られてたんすね」

「じゃ、さっさと待ってる仲間連れてきて……ここで奥さんもらって、美味いもん食って、一生面白おかしく暮らそうぜ!」



 そうして俺たちダガー盗賊団は、全員盗賊稼業から足を洗って、この村で暮らすことになり……


 やがて俺は、村長むらおさの孫娘と結婚して……この村のおさを継ぐことになったのだった。






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