突発的事象に対しての弁明より提案及び要求が一件
目々
巻き添え・道連れ・共倒れ
今日は来んなって言ったはずだろ。何玄関から入ってきてんだよ。俺んちだぞ。
連絡入れたろ、どうしてスマホ確認してくんないんだよ。お前本当それ悪い癖だと思うよ。彼女とかできてそれだとすぐフラれるよ。高校の頃から思ってたけど、そうやって連絡に気づかなければ俺の勝ちだから流れで遊べるみたいな思考ってほんと不健全だと思う。しかも勝手に入ってくるしさ。俺が家いる間は鍵かけないからって、友達でもチャイムくらいは礼儀として押せってずっと──ああもう、ほんっと最悪。
ほら。そういう顔するじゃん。
とりあえず説明はするから、黙っててほしいんだよね。スマホしまってくんないかな。撮影とか、通話とか。そういうのちょっと、今センシティブだから。状況が。
じゃあそこに座れよ。今更出ていくなんて言うなよ。
とりあえずね、大前提としてはさ。俺悪くないと思うんだよ。一応ね、理屈とか主張があるから。聞いて。
まずここね、訳あり物件なんだよ。
関係あるからちゃんと聞いて。俺真剣に話してるから。誤魔化す気とかあんまりないから。
訳ありってもね、ちょっと人が死んでるってくらいだから。そりゃ多少は験とか気味とか悪いかも知んないけど、全部が全部駄目ってわけでもないんだよ。
訳の内訳としてはね、前住民は風呂場でオバドって腐ってたとこ見つかったってのが直近のやつ。ちょっと見つかってから片づけるまでが近所に知れ渡っちゃったから外聞は悪いけど、それは仕方ないと思ってる。俺自身は好青年だし。取り戻せる範囲の失点だと思う。改善可能としても、まあそこは弱点だよね。訳ありに住むやつが色眼鏡で見られる。
でも
そりゃちょっとは変なことはあったよ。
出した覚えのないコップが机に出てたり、お湯入れてないのに風呂場から水音がしたり、帰ってきた途端部屋中異臭が充満してたりさ。でも別にいいんだよコップはしまえばいいし。風呂場だって火事なら困るけど水なら別にいいし、見に行ったって水ないしじゃあ放置で問題ないし。異臭だって不動産屋が言ってたように塩撒けば五分ぐらいでなんともなくなるからね。まあいいじゃんそんなの。毎月の塩代入れてもまだ相場よりか抜群に安いもん、家賃。
あとさあ、これお前には言ってなかったんだけど、一人で寝てるときにたまに誰か立ってたりうろうろしてたりはしてたのよ。警察っていうか……腕とかなかったり足ごちゃごちゃしてたりしてたからさ。警察に言いつけても、引っ張られるの俺じゃん。何で俺に言わなかったって言ったらお前来なくなっちゃうだろ。寂しいじゃん。それにうろうろしてるだけで何もしてこなかったからね。首絞めてもこないし恨み言をぶつけてきたりもしないし。じゃあいいじゃん。見逃すじゃんそんなの。ゴミ吸わないルンバみたいなもんだよ。
じゃあさ、その辺を前提として考えてみてよ。
昼寝してるときに気づいたら部屋に入り込んで俺のカバンごそごそ漁ってたやつなんかさ、幽霊だと思うのも無理ないじゃん。だったらまあちょっと、ひどめにぶってもいいと思うでしょ。生身相手にやると大騒ぎだけど幽霊ならほら、酒瓶ぐらいなんともないはずだと思うじゃん。
そう思ってぶん殴ったらさ、泥棒だったとかひどいと思うんだよね。俺、被害者だと思う。あとビール瓶って意外と割れない。これは俺もびっくりした。
だからさ。そう。警察沙汰は待って欲しいんだよ。救急車も駄目だよ。助かっても前科ついちゃうもん俺。多分もう駄目だと思うけど。
どうせ人んちに盗みに入るやつなんて家庭環境も交友関係もろくでもない人間のクズなんだけどさ。でもそんなクズでもこうやって殺しちゃうとさ、やった人間が悪いことになっちゃうだろ。いや理屈は分かるんだよ人権っていうか個人というよりも国家の資源としての人間を毀損したことの──はい。言い訳かなあ。屁理屈でもないと思うよ。俺としては説明のつもりだもん。だってお前が急に来るからさ、こういうことなんだよって教えてあげないとさ、不親切じゃん諸々が。そもそもお前が来なければ俺だけでよしって済ませるつもりだったんだからさ。
一応ね、こうやって
つまりさあ、提案があんの。お前に。俺から。
一回ぐらいはさ、人埋めてみてもいいと思うんだ、人生。
頑張ればバレないと思うし、ほら、経験として。滅多にできることじゃないからさ。再三いうけどこいつ泥棒だからね。俺がうたた寝してる間に貧乏アルバイターの財布漁るようなやつなんて絶対ロクなもんじゃないじゃん。髪アッシュグリーンだし。泥棒の癖に髪染めてるようなやつは駄目だよ。やる気がない。そんなやつならさ、埋めてもほら、情状酌量の余地があると思うんだよ。ゴミ捨てたら喜ばれるじゃん。今でもたまに話題になるじゃん、イベント後のゴミ拾うボランティアとか。やっぱさ、みんなゴミって捨てたいんだよ。俺間違ったこと言ってないだろ?
でね、良ければっていうか、お願いっていうか。これくらいやってほしいっていうか──せっかく来てくれたわけだからね。手伝って欲しいんだけど。
そんくらいはお願いしてもいいと思うんだよ、俺。諸々総合的に考えてさ。そのくらいのことはしてもね、いいんじゃないかなって思うんだよ。
とりあえずね、早めに答えてくれよ。手伝ってくれなかった場合はさ、俺もやることが増えるわけだから。分かるだろ?
突発的事象に対しての弁明より提案及び要求が一件 目々 @meme2mason
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます