正しさとは、愚かさとは

清泪(せいな)

いいわけ

 ある夜、小さな町で殺人事件が発生した。

 被害者は町内で知られた人物であり、容疑がかかったのは町の有名な弁護士だった。


 弁護士は無実を主張していたが、事件を恐れるどころか野次馬へと変貌した町民たちは、著名人にかかった容疑が事実であることを面白半分に確信し、弁護士に対して非常に悪意を持っていた。


 弁護士は証拠不十分として釈放されたが、町民たちは彼を追いかけまわすようになった。

 彼は自宅に引きこもり、独りで暮らすことを余儀なくされた。


 その後しばらくして、町内で次々と事件が発生し、多くの人々が殺人で亡くなった。

 被害者たちは、弁護士が繋がりのある人たちだった。


 そして町民たちは、弁護士をより強く疑いはじめた。

 弁護士は、町民たちに静寂を求めた。

 その時、弁護士は自らの無実を証明するため、引きこもりをやめて町へと向かうことを決意した。


 彼は町に戻り、事件の真相を明らかにすることができた。

 弁護士にかかった容疑は、誤認逮捕によるものであり、弁護士は真犯人が持っていたある証拠を突きつけ、真犯人を追い詰めることができたのだった。


 弁護士は、真実を示し自分の無実を証明したが、町民たちは一度振り上げた拳を下げることが出来ず弁護士の弁明を取り下げさせようと彼に襲い掛かろうとしていた。

 彼は逃げ延び、何故ここまで嫌われるのかと自分の過去を振り返った。


 真実は、事実であるということを弁護士は知っていたが、自分が町民たちとの交わりから脱却しなければならないという自覚があったのだった。


 弁護士は、自分自身を正当化していたが、行為の意図が本当に正しかったのだろうか。

 彼の心にあった、自己正当化を塗り替えなければならない真実があった。


 彼は、真っ当に真実をただ並べることが正しいことであるとは言えず、あやふやにするための適当ないいわけをすることを学んだのだった。

 それが、時として身を守る術となる。

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正しさとは、愚かさとは 清泪(せいな) @seina35

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