KAC20237 あそぼうの誘いと、いいわけ

久遠 れんり

仕方がない、遊ぼう

 おれは、小説家デビューを目指し、WEBで小説を投稿している。

 だが現実は、アップしてもPVは増えない。


 友人に言われて、色々な体験を実際に積んでみることにしたが、無理な物は無理。

 恋愛、様々な業種経験、転生、転移、野良ダンジョン遭遇を切り捨て、ホラーに決めた。

 目の前のアパート。確かいわくつきのはず。


 深く考えず、書かれている不動産屋さんへ電話して、「部屋1丁」とお願いした。

 向こうも乗りよく、すぐに契約書と鍵を持ってきた。

「古いからね、たまにどぶ臭かったり、物音がするけれど気にしないでね。あと天井からじゃないんだけれど、たまに畳が濡れた感じがするけど、すぐ乾くから。じゃあすぐに入れるからね」

 そう言い残して、おじさんは明るく帰っていった。

 敷金礼金も1月分でよかった。ラッキー。



 まだ元のアパートも契約があるため、試しだけと思い寝袋とスマホ。

 それに、スーパーで買った、安くなっていたそばとおにぎり二つ。それとお茶を持って部屋に入った。


 まあ初体験。素敵でした。

 5歳くらいの女の子が夜中に現れて、「遊ぼう」と仰る。

「もう少し大きくなったら、遊ぼうね」俺は答える。

「わかった。じゃあ早く、ここから逃げた方が良いよ」

 そう言って、消えて行った。


 ポチポチと、スマホでメモを取る。

 今起こっている、頭痛も特有の何かだろう。


 翌朝ドアを開けると、階段側から美人なお姉さんがやってくる。

「おはようございます。お隣さんですね」

 そういって、にっこり笑う彼女に、

「小説を書くのに、静かな所を探していまして」

 と見栄を張る。

「まあ先生なのね。よろしくね」

 

 その晩、アルバイトの帰りふらっと、ぼろい方のアパートへ帰る。

 カンカンと音を立て階段を上ると、お隣さんも帰って来たばかりのようだ。

「あら先生、今お帰りですか?」

「ええまあ」

 そう言って、鍵を開けようとすると声がかかる。

「お話を伺いたいし、1時間後くらいに家へ来られません?」

「私は良いのですが、こんな見ず知らずの男。良いんですか?」

「ええ。小説の事とか伺いたいの」

「わかりました、じゃあ、1時間後伺います」


 心の中で飛び上がる。

 これも経験。

 何か手土産がいるな。何か、買って来よう。

 踵を返して、買い物に行った。


 そのまま、ちょっと高めのケーキと、ミニタルトの詰め合わせを抱え、ドアをノックする。

 その時、俺の部屋から、声が聞こえた気がしたのだが無視をした。


「あら、時間ぴったりね」


 部屋に入り、食事とその後の濃厚なエッチも含め、夢のような時間を過ごす。

 ああ、もう死んでもいい。

 ふと目を覚ます。

 誰か知らない首が、目の前でビニール袋に包まれている。


 思いっきり息をのむ。

 体は、後ろ手に足も縛られエビぞり状態。さるぐつわもしっかりされている。


「やっと目がさめた。逃げろって言ったのに」

 床から生えてきた彼女がそう言うと、縄がわずかに緩む。

「ごめん。まさか、こんなことになるなんて」

 ばつが悪く、言い訳をする。

「いいの。でも約束忘れないでね」

 そう言って消えていく彼女。


 何とか体を動かしていると、これはのこぎりか。

 何とか、手でつかみ手足を傷だらけにしながら、縄を切る。


 そっと、部屋の中を覗く。

 ここは押し入れの中。

 違和感に気が付く。

 ここは俺の部屋?


 這い出して、パンツ一丁のまま外へ出て、交番へ飛び込む。


 スマホも何もかも奪われている状態。

 早くしなければ。


 警察が、調べてあの首は隣の部屋の人。

 女性ではなく、おっさんだ。

 俺の部屋で首が発見されて、胴体は自分の部屋にあったようだ。

 当然事情聴取を受ける。


 ひたすら、いいわけを繰り返して、女の特徴を伝える。


 ひと通り事情聴取が終わった頃、

「お医者さんが来たから、治療を受けてね」

 入って来た、医者。


「っ。お巡りさん。こいつ、こいつが犯人です」

 そうはっきり言ったのに、なぜか俺の方が、警官に取り押さえられる。

「あらー、あまり興奮しちゃだめよ」

 そう言って冷静に注射器を取り出す。

 よくわからない注射液を打たれ、俺の意識は消失する。


「あーあ。いつものように、変死体で法医の方へ出すか、そのまま検体でもいいかしら。それにしても逃げなければ、もう少し遊べたのに、残念」



「お兄ちゃん。逃げられなかったね。私まだ大きくなっていないけど、遊ぼう」

 俺は、彼女の手を取る。

「ホラーより現実の方が怖いんだね。せっかく良い体験をしたのに、書けないや。それだけが恨めしい。絶対PV伸びたのに」

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KAC20237 あそぼうの誘いと、いいわけ 久遠 れんり @recmiya

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